怪話集(嗤)

@candy13on

第1話 あたし昨日から人魚だよ!

「あたしね、昨日から人魚だったんですよ〜」

 どこが?

 どう見ても、そこらへんにいる……。

「なによん?」

 馬鹿。

「バカとは何よ、バカとはぁっ! 失礼しちゃうわっ。あたし、海馬でも海鹿でもありませーん」

 海馬はともかく、海鹿って何だ?

「知るもんですか」

 ブルーアイズドラゴンは?

「話が進まないっ! いい? あたし、人魚。わかった?」

 なにが?

「どう見ても人魚でしょ? この長い黒髪」

 前髪パッツン、頭プッツン。

「黙って聞いてて、お願いだから。あたしが人魚だということを、懇切丁寧に説明してあげる」

 はいはい。

「いい? そして、このセクシー系を彷彿とさせるボデーライン」

 セクシーって言い切って欲しい。

「どう?」

 何が?

「もう九割は人魚でしょうに」

 せめて5割だろ。上半身の話だけだし。

「わかんないかなー?」

 わかんない、わかんない。

「固定観念を捨てるべきよ」

 捨てたところで何も変わらないと思うよ。

「ホタテブラ装備したら、もう完璧人魚よ」

 乳の話は墓穴だからやめとけ。

「余計なお世話ですぅ!」

 人魚っていったら、下半身が。

「あー、これだ。やんなっちゃうなぁ」

 なにが?

「おっぱいだけじゃなくて、そっちも欲しがるの? いっつもそうね、あんたは!」

 両の足を地につけて、仁王立ちされて言われたって、人魚の『魚』はどこにもないよ。

「やはり、手には水かき、必要だったか。まだ生えてこないのよね」

 もっと別な点を気にするべきでは。

 せめて泳げ。

「そんなことしたら、あたし、魚人、半魚人ぎょぴぎょぴじゃないの。嫌だ、絶対に嫌」

 じゃあ、人魚の『魚』の部分は、どこにあるって言うんだ。

「それは、あたしの胸に在る」

 結局、乳房の話か。

「違う違う、あたしの心の中にあるの」

 やっぱりオマエ、馬鹿じゃないか。

「バカじゃないもんっ! 人魚だもんっ!」

 確固たる証拠がない。

「じゃあ、どうしろっていうの。どうしたら、あなたはあたしを信じてくれるの?」

 困ったなぁ。

「あなたに信じてもらえないなんて。もう泣きたくなってきた……うぅぅ」

 泣くな泣くな。

 って、おまえ。涙がっ!

「おぉ? これってもしかして、宝石? 涙がジュエリーになった?」

 すごいな、珠玉だ。

「……こ、これで小泉先生の例の話の如く、あたしが人魚と証明されたでしょ?」

 人魚じゃないな、うん。

「え?」

 小泉先生の話、ありゃ鮫人だ。


 そして彼女は泣いた。

 さめざめと。


 第一話 了

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る