第11話 諦めは悪い方でしてよ?
令嬢勇者は困惑していた。
あの瞬間、諦めたくない一心で反撃の為の剣を欲したが、まさか双剣として出てくるとは全く思いもよらなかった。
手の内の得物に目をやる。意匠こそあの宝剣を模しているものの、刀身は突くよりも斬ることに重きを置いた湾曲した形状に変化し、片手で扱えるよう長さを切り詰められていた。握りも重心も緻密に調整されたそれは長年連れ添った相棒が如く手に馴染むのである。
「こんなの、わたくし知りませんわ……」
「ふむ……であれば、鎧が己の判断で得物を用意したと考えるのが妥当でしょう。それにしても、剣だけでなく槍に盾、それに双剣まで出せるとは……いやはや、貴女には驚かされてばかりです」
"鬼謀"が弾き飛ばされた彼女の槍と、ひしゃげた盾を拾って持って来るとまじまじと眺めて検める。
「重さも質感も金属製のそれですな……おや?」
突如、槍と盾は彼の手の中で光の粒となって跡形もなく消えてしまった。
「あ……消えてしまいましたわ……わたくし、何も命じてませんのに」
「ほほぅ、つまり普段は命じることで消えるんですね?」
だとしたら……と、"鬼謀"は己の考えを纏めた。
「令嬢勇者殿の証言から推察するに、これらの魔力で編まれた武具は持ち主の手を離れたとしても注がれた魔力が持続する限りその形を保っていられるのでしょう。命じれば消えるその性質故に、敵に奪われ使用される心配もありません。いっそ投擲武器として扱うのも面白そうですな!」
"鬼謀"は大層楽しげに考察を述べる。それを聞いた令嬢は驚き目を丸くした。
「剣を投げるだなんて! わたくし、まるで考えもしませんでした。だってそんなの、勇者の戦い方ではありませんもの」
「ははっ、そう思うのも無理はありません。ですが、それは相手にも言えること。目の前の勇者がいきなり得物を投げ付けて来るなど、誰が予測できましょうや?」
「んなもん思い付くのはお前か俺のような戦闘馬鹿くらいだろうが……とはいえ、俺も投擲武器として投げナイフや手斧も使うぞ。集団戦じゃ、後方に居る魔術師や弓兵を狙うのは常套手段だしな。それに
「は、はい!」
その時、背後の草藪が揺れる。令嬢は警戒し咄嗟に武器を構えた。藪を掻き分けて出てきたのは、多数の小柄な白い影……骨だけの姿で直立するゴブリンの群れであった。
小さく息を飲む令嬢。だが、その後ろから出てきた存在によって緊張は解かれることになる。
「お待たせしましたー!」
「"白骸"さん!?」
骨ゴブリンを率いていたのは先程から姿の見えなかった"白骸"の勇者であった。
「そう言えば見せるのは初めてでしたっけ? 私、勇者ですけど特技は
「え、ええー……勇者らしくない……」
「あはは……よく言われます」
苦笑する"白骸"を尻目に令嬢は骨ゴブリンの群れを一瞥する。皆一様に木の棍棒を握っていた。一体、何をするつもりなのだろうか?
そんな令嬢の疑問に"鬼謀"が答える。
「私が手配を頼みました。戦闘経験が足りないなら、場数を踏んで経験を積めば良いだけのこと。という訳で、ちょっとした模擬戦です。令嬢勇者殿は襲い掛かる
"鬼謀"が提示した賞品に2人は目を輝かせる。
「わかりました! けど、良いんですか? 私、勝っちゃいそうですけど……」
"白骸"がそう宣うと突如剣が飛来し、近くの木に突き刺さった。令嬢が双剣の片割れを投げ付けたのだ。
「あら、ごめん遊ばせ。聞き捨てならない言葉が聞こえましたので。生憎とわたくし、諦めは悪い方でしてよ?」
「怖ぁっ!? ちょ、誰ですか令嬢勇者さんにこんなこと教えたの!?」
「あははっ、早速活用してますね!」
「お前かァ"鬼謀"!! おのれ許さんぞ"鬼謀"!!」
斯くして"白骸"と令嬢勇者の模擬戦の火蓋が切って落とされた。
「ところで、この魔力で作った剣を方々で売ってたら路銀には困らなかったのでは?」
「そんな
やはりこの"
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