第24話 エピローグ

 ──あれから数週間後。



「……行っちまうのか」

「はい。お世話になりました、師匠。それから"鬼謀"殿、"白骸"殿」


 使い込まれた悪魔殺しの大剣を背負い、緋備えの硬革鎧に身を包んだ獣人勇者。

 今や"緋月"と呼ばれるようになった勇者は、遂に己の一党を、部族を率いる為に巣立ちの時を迎えたのであった。


「いやはや、寂しくなりますねぇ」

「会いたくなったらいつでも会いに来てくださいね!」


 "白骸"と"鬼謀"も"緋月"との別れを惜しんだ。

 短い間とはいえ家族同然に過ごした仲なのだ、別れは当然のように寂しい。

 だからこそ、精一杯の笑顔で送り出してやるのが仲間というものだろう。


「なぁ、"緋月"の」

「何でしょう師匠?」

「俺から言い出したことだがよ、そろそろ師匠ってのはやめねぇか? 免許皆伝はしたはずだろ?」

「それでも師匠は師匠です! 私を打ち倒した唯一の男ですので!」


 "緋月"の真っ直ぐな言葉に頭を掻く"暴勇"。


「……お前が立派に一党を率いて戻って来た時、今度こそ本気で試合ってやる」


「……へ?」


 "緋月"はきょとんとする。


「今度は模擬戦じゃねぇ。俺を唸らせるくらい良い女になって帰って来い。……それまで誰にも負けるんじゃねぇぞ」


 "暴勇"なりの激励のつもりなのだろう。

 だが、端から見るとこれは──


「(……プロポーズですよね?)」

「(プロポーズですね……)」


 顔を見合わせる"白骸"と"鬼謀"。感動で涙する"緋月"。


「……~~~ッ! わかりましたっ! 師匠好みの女になって帰って参りますっ!」

「お、おう? ……まぁ頑張れよ、我が弟子」


 別れを済ませると"緋月"は馬車へと乗り込んだ。

 これから先、彼女はどんな物語を綴るのだろうか。3人は一様に楽しみで仕方がなかった。

 再び会えた時は、お互いの冒険譚に花を咲かせるとしよう。


「(……私も、いつかは"緋月"のように独り立ちして、自分の一党を持つことが出来るかな……?)」


 "緋月"の門出を見送る"白骸"の物憂れげな表情を見抜いたのか、"鬼謀"が声をかける。


「おや、悩み事ですか? なぁに、焦る必要はありませんよ。時間の許す限りいっぱい悩めばよろしい。相談事でしたら、いつでもこの"鬼謀"が力になりますよ」


「なんだなんだ、俺は仲間外れかよ? そりゃ"鬼謀"ほど頼りにならねぇかもしれねぇがな、愚痴くらいならいくらでも聞いてやるよ」


 そう言うと"暴勇"は"白骸"の頭をわしわしと撫でて来た。

 2人の言う通り、焦ることは無い。仲間を頼ることもまた勇者の特権なのだから。


「さぁて、俺も弟子に負けてられねぇな! おい"鬼謀"の、良い依頼はあるか? 骨のある奴と戦いてぇ!」

「ふむ……でしたら幾つか候補がありまして。これなんかオススメですが、いかがです?」

「どれどれ……お、いいじゃねぇか! ……っと、おい"白骸"の、お前はどうする?」

「ちょっ、待ってくださいよ! ああもう……私も行きますから!」


 仲間を追って少女は駆け出す。

 腰に差した竜牙の剣が、朝日を受けて煌めいた。




 あるところに勇者のみの奇妙な一党あり。

 彼らは一見、勇者らしくないかもしれない。

 それもそのはず、一党の名は【追放勇者同盟】。

 かつて勇者失格の烙印を押された者たちである。

 しかしそれでも、彼らは勇者たらんとする。

 彼らなりに勇者じぶんらしさを探しながら、今日も勇者じぶんらしく今を生きている。




第2章 頭目の資格 完


第3章へと続く

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