第22話 竜殺しの真相
「"光輝"の勇者ではなく、闇魔術師に殺された……?」
"白骸"は我が耳を疑った。伝え聞いた話と違う。
一体どういうことかと聞こうとした矢先、背後から声がした。
「な、なんだこれは!? どうなってる!?」
「ヒッ……ほ、骨の、ドラゴン……!?」
「あ、あれは……
振り向くとそこには"光輝"の一党が立っていた。
彼らは不死竜の姿を見ると即座に戦闘体勢を取った。
不死竜も臨戦体勢に入ろうとする。
「待ってください! 話を聞いて!」
「皆さん、鉾を収めてください! 戦いは終わりました!」
"白骸"と"鬼謀"が不死竜と"光輝"の一党の前に割って入り、説得を試みる。
「おい、優等生! ……探し物だぜ」
"暴勇"は不死竜の足元から血にまみれたローブを引き抜くと、優等生の闇魔術師に渡した。
「こ……これ、は……師匠のもの、です……」
闇魔術師はローブに付いてた鴉の意匠の飾りを見付けるとボロボロと泣き崩れた。
「……どういうことか説明してもらうぞ。何故お前たちがここに居る? 何故我々が追っていた死霊術師が死んでいる? この不死竜はなんだ?」
見事な意匠の剣を腰に携えた美男子が前に出る。
彼こそ"光輝"の勇者その人だ。
「……わかりました。代わりに、こちらからもお尋ねしたいことがありますので」
"鬼謀"が音頭を取り、ここに至るまでの一部始終を話した。
「……そうか、世話をかけたな。彼に代わって質問に答えるが、お前たちが倒した死霊術師は我が一党の闇魔術師の師で相違無い。……元々は闇魔術の権威であったが、二ヶ月程前から行方を眩ましていてな……漸く手掛かり掴んだと思えば、よもや死霊魔術に傾倒しリッチになりかけていたとは。老い衰える恐怖に負けるとは、痛ましくも嘆かわしい……」
「それで我の心臓を求めたか。何ともはや、定命の者らしい」
不死竜の言葉に苦い顔をしながら"光輝"の勇者は問いを投げ返す。
「それよりも答えよ邪竜。何故貴様はここにいる? 貴様は我が聖剣で跡形もなく消し飛んだと聞いたが?」
「笑止。我を殺したのは聖剣にあらず。そこにいる闇魔術師よ」
皆の視線が闇魔術師に注がれる。
「……全てをお話しします……」
彼は観念したようにポツポツと話し始めた。
──この若き術士は才に恵まれていた。
こと闇の魔術においては他人が一を知る頃には十を知る勢いであった。それでいて堕落に屈することの無いよう、己を律する善良な心も持ち合わせていた。
故に、闇魔術の最奥の一端である『即死の呪い』を習得するのに、さほど時間はかからなかった。
師の下を離れた後、冒険者として活躍するのはある意味必然だったと言えるだろう。
彼は己の才を十全に用いて人一倍働いた。自慢の『即死の呪い』で、ありとあらゆる敵を屠って来た。向かうところ敵無しであった……だが、そんな彼に対し"暴勇"はクビを言い渡した。
その時、彼は初めて『他人の活躍と成長の機会を奪っていた』ことを理解した。仲間から頼られることに気を良くし、己の力を誇示するように振るい続けたことを恥じた。……これでは、自分はおろか大切な仲間まで堕落してしまう。
故に、次に入った"光輝"の一党では『即死の呪い』を封印し、優秀な参謀兼サポーター役に徹していたのだ。
彼ら一党が邪竜討伐に挑んだ際、"光輝"の勇者が聖剣の力を解放した。
凄まじい光の奔流が邪竜を焼いた。……しかし、邪竜はまだ生きていた。
一方、"光輝"は聖剣を使った反動で気を失っていた。
このままでは不味い……そう思った闇魔術師は、意を決して封印していた『即死の呪い』を放ったのであった──
「──竜は呪いを受けたにも関わらず飛び去ってしまい、目覚めた"光輝"殿には『跡形もなく蒸発した』と伝える他ありませんでした……」
「左様。そして、即死を免れたものの致命傷を負った我は、傷を癒すべくここを目指したが……『死の呪い』が我が命を蝕み、敢えなくここで果てたのだ」
闇魔術師の独白を聞いた"暴勇"は「んだよ、わかってんじゃねぇか……」と小さく独りごちた。
「……そう、だったのか。……俺は、竜殺しではなかったんだな……」
真相を知った"光輝"が肩を落とす。
「申し訳ありません……! わ、私は、なんということを……!」
闇魔術師が泣きながら頭を下げると、"光輝"がそれを制した。
「頭を上げてくれ。……卿のお陰で、俺は今生きてここにいるのだから。ありがとう、我が友よ……!」
「"光輝"様……!」
"光輝"は咽び泣く闇魔術師の肩に触れ宥めた。
「話しは済んだな? では、死ぬがよい」
突如、不死竜が大口を開け闇魔術師に食らいついた!
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