第5話 百聞は一刀に如かず

「おい小娘。大層腕が立つようだがな、こんなやり方で人が集まると本気で思ってんのか?」


 啖呵を切る"暴勇"を獣人勇者は見据えるとフッと口元を弛める。


「……ほう、少しは見所のある勇士が居るようだ。何度も言うが、私の群れに弱者は不要! 私について来れる強者のみ求めている!」


「……強ぇ奴と組みてぇって気持ちは俺にもわかるがよ、テメェ1人が先走ってちゃ誰もついて来ちゃくれねぇんだぜ?」


 俺も最近知ったことだけどな……と、"暴勇"は小さく呟いた。


「何だ、説教垂れる為に来たのか? 弱者の言葉に価値があるとは思えんな」

「……言ってもわからねぇか。なら仕方ねぇや」


 "暴勇"は大剣得物を抜いた。


「……ほう、百の詭弁なんぞよりも遥かにわかりやすくて助かるぞ、勇士」


 獣人勇者は再び大斧を蜻蛉に構える。

 ──先程の男の時とは明らかに気迫が違う。


「死ぬ前に名乗るが良い、勇士」

「"暴勇"の勇者、そう呼ばれてる」

「"暴勇"か、覚えたぞ。私は銀狼の徒、『銀牙』の族長の子! いざ参る!」


「……始めッ!」

「チェェリャアアアァァァァアァァアアァァァッッ!!!」

「ゥルオオォォラアアアァァァアァァァアァァッッ!!!」


 審判役の合図と同時に、2人は凄まじい叫び声を上げほぼ同時に地面を蹴った。超重量の得物同士が激しくぶつかり合い火花が散る。体格差はあれど2人の膂力はほぼ互角であった。


 が、次の瞬間! 獣人勇者の大斧が砕け、獣人勇者は勢いよく場外へと吹きとばされた!

 獣人勇者は自分に何が起こったか一瞬理解が追い付かなかった。だが、立ち上がろうとした自分の首に"暴勇"の大剣の切っ先が突き付けられたことで、漸く自分は負けたのだと理解し力無く項垂れた。


「……これでわかったか? 俺は、テメェより強い!」


 "暴勇"が大剣を納めるとギャラリーから喝采が上がった。

 呆ける獣人勇者に"暴勇"は向き直ると頭を下げた。


「悪ぃ、大事な斧ブッ壊しちまった。本当にすまなかった……!」

「いや、いい……もう、必要の無いものだ……」


 そう言うやいなや、獣人の少女は突如鎧と服を脱ぎ捨てると地面に座り平伏し地に頭を擦り付けるが如く頭を垂れた。土下座である。


「なっ……!? おま、何して……!?」

「わ……我ら銀狼の徒は、一騎討ちで負けた者は生殺与奪の権利を相手に明け渡すのが掟……相手が異性ならば、娶られるのが習わし……です」

「……は? 娶っ……はぁぁ!?」


 驚愕し狼狽する"暴勇"。事の一部始終を見ていた冒険者たちがざわつく。衛兵を呼びに走ろうとする者まで出る始末である。


「わ、私のことは好きにして構いませぬ! 自分より強いオトコに嫁ぐのは部族の誉! しかし、ここで見逃され生き恥を晒すのは最大の屈辱! 生きてはおれません!」


 要するにフラれたらこの場で死ぬぞと脅しているのだ。なんたる潔さか。否、感心している場合ではない。

 何卒お慈悲を……と、"暴勇"の目の前で全裸で地面に頭を擦り付ける獣人の少女。絵面は完全に犯罪である。


「わ、わかった! わかったから服を着ろーーーッ!!」


 遂には"暴勇"が折れた。

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