第18話 追放勇者同盟
「──はて、何のことでしょうか?」
"鬼謀"は惚けたように首を傾げる。
「今回の依頼は『掃討』だ。当然、見逃しちゃならねぇものがあるはずだろう?」
「……流石は"暴勇"の、鋭い。無論、処理しておきましたとも。抜かりはありませんよ」
『掃討』とは即ち一切鏖殺、1匹残らず駆除しなくてはならない。──当然、その対象にはゴブリンの子供も含まれる。
「あの地下牢、巧妙に隠されてましたが奥に隠し部屋がありました。捕虜も、もう一人……既に手遅れでしたがね」
「そうか……嬢ちゃんに教えなくて良かったのか?」
「……いずれはその時が来るでしょう。ですが、今日ではなかった。それだけのことです」
「今日教えなかった結果、見逃すヘマやらかしたとしても……お前は同じこと言えるのか?」
生き延びたゴブリンの子は悪意を学び、知恵を身に付ける。そして成長したゴブリンはいずれ人に危害を加えることだろう。
可哀想だからといってゴブリン相手に情けをかける必要は無いのだ。それは間違いなく仇となって返って来る。
「手厳しいですね、"暴勇"は……次の機会には、必ず教えましょうとも」
「……優しいだけが勇者じゃねぇよ」
「……はは、私もそう思います」
"暴勇"の指摘に"鬼謀"は苦笑しながら頷いた。
「それにしても、らしくないことしたらしいじゃねぇか。お前、本当にあの"鬼謀"か?」
"暴勇"が訝しむのも無理はない。この合理の化身たる男が、決死の覚悟で自ら囮役を買って出るなど不合理極まりない出来事だからだ。
「ふむ、そうですねぇ……思えば確かに、私らしくもないことをしました。いやはや、お恥ずかしい」
"鬼謀"は苦笑しながら頬を掻いた。
「正直に申し上げるとですね、彼女や"暴勇"の、貴方の熱気に当てられてしまいました。あの時は、そう、何と言いますか……『何かしなくちゃいけない気分』にさせられました。我ながら不合理極まりない短絡的な行いでしたが……時には『直感』や『衝動』に従うのも悪くないでしょう?」
「違いねぇ」
合点がいったのだろう、"暴勇"は笑った。
「この際だし俺も正直に言わせてもらうがな、最初はお前のことがクソほどいけ好かなかった」
「おやおや、これは手厳しい」
「噂に聞くお前は、仲間を犠牲にしながら尻尾巻いて逃げ出すような臆病者だと。今回も当然のように仲間に犠牲を強いておきながら自分は高みの見物を決め込む卑怯者だと。俺も初めはそう思ってたさ」
「……何も間違ってはいませんね」
「だけどよ……蓋を開けたら全然違った」
"暴勇"は真面目な顔で"鬼謀"に向き合った。
「お前は、俺を頭ごなしに否定しなかった。やれ『前に出過ぎるな』とか『出番があるまで後ろで見てろ』とか『馬鹿は黙って作戦に従ってればいいんだ』とか、そういった命令は一切言わなかった。それどころか、俺や嬢ちゃんのやりたいことを汲み取り、俺たちの性格を踏まえて作戦を考え、頭の足りねぇ俺にも伝わるようわかりやすく説明してくれたじゃねぇか。これは他人を捨て駒扱いする奴のやることじゃねぇ……まるで評判と違ぇじゃねぇか。全く、大したやつだぜお前は」
"暴勇"の真っ直ぐな評価に"鬼謀"は気恥ずかしくなった。
「……何も難しいことはしてませんよ。当たり前のことをしたまでです」
「だとしてもだ」
突如"暴勇"は深々と頭を下げた。誰かに頭を下げるなど、あの"暴勇"からは考えられない行動であった。
「今日、俺たち全員が無事に生きて帰れたのはお前のおかけだ。ありがとう……!」
「あ、頭を上げてください……! それに貴方は、私を誤解している──」
「誤解だと?」
「犠牲が無い、と言えば嘘になります。彼女の骸骨兵などその最たるもの。多少無理の利く兵力を手に入れたからといって、負担があるのは事実。それに貴方には最前線を任せてる以上、常に危険が伴います。実際、貴方は一度死にかけたそうじゃないですか。とても無事とは……」
「必要な犠牲だった。そうだろう?」
"鬼謀"は呆気にとられる。
「……いやはや、まさか貴方に言われるとは」
「なぁに、お前にならこれからも『使われ』てやってもいいさ。俺という剣、お前なら十分使いこなせるだろう? ま、作戦に納得できなきゃ、その時は相談でも何でもすりゃいい。その為の対等な関係、だろう?」
傷だらけの顔でニヤリと笑う"暴勇"。
「はぁ……わかりましたよ。そこまで信頼されては、応えなければ勇者の名が廃るというもの。──今後ともよろしくお願いしますよ、"暴勇"の」
「おう、任せとけ」
二人は拳を突き合わせた。──それは古くより伝わる戦友の契りであった。
「──ああ、そうだ。今後も続けて行くのであれば、同盟の名前を決めてしまいましょうか。活動するにあたって名前が無いのは些か不便です故。何か良い案はありますかな?」
「【"暴勇"と愉快な仲間たち】」
「ははは、却下です」
「なんでだよ、俺が頭目だろうが」
「形式上は、ですがね。対等な関係と言ったばかりでしょうが」
「んだよ、じゃあお前も案を出せ案を」
「ふむ、では──【追放勇者同盟】なんてどうです?」
「ちと在り来たりだが……まぁ悪くはねぇな」
「では、後で彼女の意見も聞いてみましょうかね」
「聞くまでも無いとは思うがな──」
「はは、私もそう思ってますよ──」
【追放勇者同盟】──これなるは我ら新たな名であり、光を見失いし勇者たちの寄る辺とならん。
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