第19話 エピローグ

 ──馬車が街へ着く頃には既に朝だった。

 3人の勇者はギルドに向かうと、依頼達成の報告をする。ジェネラルの首級の提示や捕虜となっていた少女たちの保護などもあり、朝から慌ただしくなる。

 結果として、当初の報酬より数倍色を着けての支払いとなった。治療費や消耗品などの経費を差っ引いても大きなお釣りが出る、と"鬼謀"は大層ご満悦だった。


 捕虜となっていた少女たちだが、数日から数週間前に消息を絶っていた複数組の冒険者一党パーティーの生き残りや、近隣の村娘であった。

 殆どは酷く精神を病んでしまっており、修道院に入るか生まれ育った田舎に引っ込むことになった。が、それでも諦めずに冒険者を続ける者が居たことだけは、少女勇者の心に涼風を呼んだ。……願わくば、彼女らが少しでも報われますように。




 ──あれから数日。




「やぁ"白骸"さん、いらっしゃい」

「こんにちは。果実水と何か軽食を1つ」


 "白骸"の勇者、それが少女勇者の貰った称号だ。

 初めての冒険で骨ゴブリンに囲まれながら帰還したのが由来なのであろう。"骸姫"なんて呼び名も候補に上がったそうだが、少女本人が恥ずかしがったので"白骸"に決まった。

 "暴勇"や"鬼謀"程では無いにせよ、一度付いたイメージはなかなか払拭できないものだ。ならばいっそ開き直るのもまた道理なのだろう。少女もなんだかんだでこの名が満更でもないようだ。


 あれから等級も上がり、装備も新調した。

 要所に魔物の硬い骨や革があしらわれた白を基調とした軽鎧を纏い、上質なマント──これは"鬼謀"からのお下がりであり、血の染みがなかなか落ちないので捨てようとしていたものをもらい受けたもの──を羽織る。

 魔術師の杖代わりに宝石の嵌まった短剣を腰に差すことで、申し訳程度には勇者と名乗れる風貌になっている。


 "白骸"と呼ばれた少女勇者は、肩に乗せた骨鼠にナッツを与え、果実水を飲みながら周囲の喧騒に耳を傾ける。

 ふと、窓の外に見知った顔があるのに気が付く。初めての冒険を共にした、あの駆け出しの2人だった。どうやらあの後も冒険者を続けているようだ。

 その姿を見て"白骸"はホッと胸を撫で下ろした。


 突如、酒場の扉が勢い良く開かれる。

 現れたのは"暴勇"と"鬼謀"であった。2人は"白骸"の姿を見付けると真っ直ぐ此方にやって来る。


「おお、ここに居たか"白骸"の! 探したぜ!」

「"暴勇"さん? 一体どうしたんですか?」

「おい、依頼クエスト行かねぇか? 何でも馬車好きのドラゴンが出るらしいぞ! ドラゴンだぞオメェ!」

「お待ちなさい! 確かにそれは興味深いですが、先に家賃を工面しないと……」

「ああもう……わかりました! 行きますから!」


 2人の盟友に急かされながら、"白骸"は新たな冒険へと駆け出した。



 あるところに3人の冒険者の一党あり。

 彼らは皆揃って自分を勇者だというが、端から見たらまるで勇者には見えない。

 そもそも勇者だけの一党があるだろうか?

 否、先入観に囚われてはいけない。

 今日も彼らは勇者じぶんらしく生きているじゃないか。



第1章 追放勇者同盟 完


第2章へと続く

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