霞 ①
初めまして、冬夜少年。君の甲斐性に感謝しつつ、私の話をさせてもらうよ。
私は一言で言えば、いいとこのお嬢様だ。幼少期から父の会社を継ぐためにあらゆる英才教育を叩き込まれ、それが出来て当然という立場に置かれていた。
私は恵まれていたと思う。望めば全てを与えられ、願えば学べる環境にいたからね。ただそれは、私にとってはあまりに窮屈でつまらないものだったんだよ。
私はね、未知なるものとか、不可思議なものが大好きなんだ。宇宙の始まり、深海の果て、世界中には心躍る事象や謎がこれでもかと眠っている。
私はその全てを知りたいんだ。でも私の願いは、私を作り上げた環境が許してはくれないんだ。
私は1度だけ、自分の夢を父に話したことがあるんだ。私の夢は、未知を解明するためなら何処にでも赴く「冒険家」だ、と。
そうしたらどうなったと思う? 私は父に思い切り殴られて、一晩中怒鳴り付けられたよ。
お前をそんな風に育てた覚えはない
今すぐそんな夢は捨てろ
私だってそんな風に育てられた覚えはなかった。でも私は恐怖で泣き喚くことしか出来なかった。泣けば更に怒鳴られたよ。
もう割り切って父の会社を継ぐことに決めているが、どうにも胸のつかえが取れなくてね。誰かに話すことで解消しようと思った訳だ。
この手紙に返事を書きたくないと思ったら、不要だよ。ここまで書いておいてなんだが、私の下らない話に付き合わせて少年の時間を浪費させるのが心苦しくなってきた。
つまらない話に付き合わせてすまない。
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