さまよう砂

晴れ時々雨

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海岸に打ち上げられた死体が彼だと知り、取り急ぎ彼の自宅へ向かった。何とか公的な手が入る前に押さえておきたいと思ったからだ。

数日前から行方がわからなかった彼の部屋へは初日に訪れていたが、留守のドアを破るのは遠慮した。

合鍵など持ち合わせていないので今度こそぶち破るつもりで意気込むと、手段とも呼べないような非常に簡単な動作でドアは開いた。

鍵はかかっていなかった。

室内は午後3時の光を差すがままに採り入れ、眩しく空室だった。窓の下のむき出しの床板の上に、複雑な柄の小さな絨毯が斜めに敷かれていた。

緻密な意匠が凝らされた織物の指し示す方角に彼の聖地がある。聖なるもののおわす時刻に、この小さき聖地の衛星に座し頭(こうべ)を垂れ崇める。

彼には界隈とは異質の秘密が漂っていた。その正体がこれなのだった。

窓からみえそうな異国を自然と眺めた。曇り空の暈光に照らされた絨毯をよく見ると、模様には物質的な意味があるようだった。緑色の蟹が戴いているのは月だろうか。違う。蟹に見えたのは城だった。ここから物語を汲み取ろうとしたがさっぱり思いつかず、若い絨毯職人の突飛な思いつきか、熟練工の手慰みと判断する以上ないという考えに至った。

意味なんかないんだ。

しかし彼の醸し出した秘密をとっくりと味わうのは自宅が向いているだろうと思い、私はいそいそと絨毯を丸めると玄関に置き去られた鍵で施錠してからその部屋を後にした。

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