駐車場から出れない問題
車を「無事に」駐車場から出せるかどうか、五分五分という状態で過ごしてきた。
勤めている会社は、主要駅にほど近い場所に立つビルの4階にある。
社用車を2台保有しているのだが、そのビルの駐車場は賃料が高いからなのか、たまたま空きがなかったのか、もう1台は少し歩く場所に置かれている。
私は雨の日でも必ず、少し歩く方の車を使っていた。
理由はただ一つ、会社があるビルの駐車場が苦手だからだ。
その駐車場を全く使わなないということはできなかったが、ほとんど運転をしたことがなかった頃、右側面を擦ってしまったことがトラウマになっていた。
そのビルは地下2階と3階が駐車場で、車ごと乗ることができるエレベーターで出入りする仕様になっているのだが、それが大問題だった。
どういう訳か、ドアが壁に対して平行ではなく斜めに設置されているため、ハンドルを切りながら乗り込む必要がある。
まさに「狭い路地の角を曲がった先が箱になっている」イメージで、地上に出るためには、恐れない強い気持ちと、サイドミラーのこまめな確認が必要だ。
過去には、自動ドアを前に何度も切り返したせいで開閉を繰り返してしまい、不審に思った管理人が確認しに来たこともあったし、上司に頼み込んで「駐車場から車を出す」という作業だけをさせてしまったこともあった。
「今年こそ克服してやる」という個人的なチャレンジは、失敗を繰り返した。
私も全く成長しなかったわけではなく、運転自体には慣れてきていたのだが、克服できずにいるうちに、会社の移転が決定した。
私は「乗れるか、乗れないか、2分の1」という感覚から、ついに抜け出せなかった。
やっとストレスから解放されるという嬉しさ半分、ライバルがいなくなるような寂しさ半分である。
正直、駐車場ごときで何をいっているんだという客観的な自分もいる。
運転が得意な同僚からすれば、大袈裟だと笑われるかもしれない。
それでも「駐車場から車を出せない問題」の終焉は、私にとって一つの時代が終わったのと同等の話なのである。
鴨の羽
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