マンハッタン
色々な「ひとり〇〇」を耳にするようになった。
単独行動はできるタイプだが、どちらかといえば苦手。そんな私が唯一好むのは、ひとりでバーに行くことである。
酒は好きだ。ただ、しっぽりというより、友人や同僚と砕けた会話を楽しみたい派なのだが、これだけはやめられない。
何度も訪れている店もあるし、一度きりの店もあるが、必ず頼むのは「カクテルの女王」と呼ばれるマンハッタン。
ウイスキーベースのショートカクテルで、マラスキーノチェリーが浮かぶそれは、「カクテル」を想像した時、大多数の人間が想像する姿をしている。
それを飲み始めた頃は、単純にチェリーがついてくるお得さが気に入っていた。
ただ、一つ馴染みの酒が手元にあるだけで安心感が得られるので、いつの間にかそれを注文することがマイルールになっていた。
一般的には静かで薄暗い店が多いので、ひとりで考え事をするのにも最適だし、目が合えば話しかけてくれるマスターもいる。
特に、旅先でホテルを抜け出して向かうシチュエーションは最高だ。
貴重な見知らぬ土地での時間で、良き店に巡り会えるかというドキドキも。
マスターや常連客との会話で得られる、耳寄りな情報も。
なんとなく心が浮ついて、もう一杯、もう一件という状態になってしまったら、マスターにマンハッタンを出してもらう。
そうすれば馴染みの味に冷静になって、余所者が羽目を外して迷惑をかけずに済む。
そして私は「ひとりで訪れたバー」からタクシーでホテルへ向かう道すがら、良き出会いを得た喜びと、無事に帰路についた自制心の勝利に酔うのだ。
鴨の羽
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