君は善と悪を語ることが出来るか

橘 タカシ

第1話

太陽の光が肌をじりじりと焼いている8月の日曜日。

スーツの背広を左腕にかけ、汗に塗れた顔をハンカチで拭きながら地下鉄へ向かういつもの道。

人と人にもみくちゃきされながら、息苦しい車内で片道60分の乗車を10年間続けている。

何も変わらない日常の中で、心は何一つ成長せず、体だけが老いてきている。

それを悲しいとも思わない。

今までの人生をすべて人のせいにして生きてきた。


漫画の中のヒーローのように、誰からも感謝され、毎日を楽しく生きていきたい。

そんな夢物語を今も頭に描きながら会社へ着いた。

ビルの6階、背中を丸め椅子に座り、目の前のパソコンを一日中眺めながら、何を生み出すわけもなく、誰とも話すことなく終わる毎日。

誰も俺を見てないし、俺自身も誰も見たいと思わない。


ふと、窓から外を眺めるとどんよりと灰色に覆われた空から雨が窓ガラスへむかって降り注いぎ、バシバシとガラスへうちつけられていた。


いつのまに雨がふりだしたんだろう?

そんな疑問が頭の中で浮かんだと同時に、彼の視線の遠くの方で下から上へものすごく早いスピードで細長い閃光が走り抜けた。

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