四季を繋ぐ架け橋よ
凪風 桜
プロローグ
そう、たった一分前に王国は崩壊した。
息を吸う度、肺に砂埃が入ってむせ返った。
数分前まであんなにも美しいと思えた宮殿の柱は今や捨てられた玩具のように、瓦礫となって私の周りに転がっている。
何ひとつ遮るものの無くなった視界の先には、倒れた木々や洪水の跡が横たわる私たちの街が広がっていた。
つい数日前まで当たり前のように通っていた聖アルモニーア学園は、コロシアムの部分が崖崩れによって崩潰しているのが遠くに小さく見えた。
これじゃ明日からの部活は当分休みかな、なんて。
あと、ほんの少しだった。
ほんの数十秒早ければラオネは死ななかったし、今頃五人揃って笑顔でこの宮殿を出ていたに違いない。
もう、そんな綺麗事のような理想は叶わない。
それなのに不思議と、私の心は井戸水のように落ち着いていた。
瓦礫をかき分けた先の目の前のひび割れたクリスタルには、私の顔が何重にも重なって映しだされている。
──今、手を伸ばせば英雄になれる。
ずっとこの時を、私が輝く時を待っていた。
学校のクラスメイトみんなに認めてもらい、両親の自慢になり、国じゅうが私をテレビで取り上げて称賛するようなスターのように。
そして、擦り切れて痛む足をなんとか励まし立ち上がった私は──
『英雄』に背を向けて歩き出した。
ためらいはあった。もう一人の私がお前はこの上ないバカだ、と大声で怒鳴りつけているような気がしたが、今そんなことはどうだってよかった。
代わりに私は、驚いたようにこちらを見つめているボロボロで傷だらけの相手に手を差し伸べた。
落ち着いた心で優しく微笑み、
「一緒に行こ」
と声をかける。
相手は当然、困惑した顔で差し出された私の掌をじっと見つめた。
乾いた風が私たちの間をすり抜ける。
「もう、大丈夫だから」
視界の隅に、少し離れた所に倒れていたホノカが目を見開き、静かに私たちを見守っているのが映る。
目の前、おもむろに顔を上げたその顔が、怯えるような瞳が、私をじっと見つめた。今の私は髪も乱れ、顔には細かな無数の傷や砂で大層汚れているに違いない。
相手は何かを言おうとして口を開きかけたが、言葉にならずにそっと唇を結ぶ。意を決して顎を少し引きこくんと頷くと、痛々しい痣の目立つ震える右手を、そっと私の左手に重ねた。
かすかな温もり。確かな優しい感触となって私たちを繋ぐ。
私たちの王国はまだ崩壊してなんかいない。そう、今まさに、新しい何かが始まろうとしているのだ。
これは、偶然の魔法が生み出した小さな島の少し変わった高校生たちの物語。
──ことの始まりは遡ること、わずか約一週間前。
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