気泡ぷくぷく

春夕は雨

不思議な夢を見た。知らない校舎が水に満たされていた。校舎ごとが海に沈んだような。


よく分からないけど手で水をかき、泳ぎながら移動してみる。廊下から足が1mは浮かんでたと思う。水の感触はあって浮遊感もある。しかも息ができる。不思議な感覚だった。網膜に映る景色は水色と緑と白が混ざっていて綺麗だった。透き通った海の中にいるみたい。気泡もぷくぷくしてて触りたくなる。手を伸ばしかけた時、急に正面から若い先生がスタスタ歩いてきた。「見つかった?」と下から柔らかい笑顔で話しかけてきた。何のことか分からないけど言われた途端、電流が走ったように私は水中を蹴った。先生ごめん、置いてけぼりにして、と謝りながら廊下を走る。いや正確には水を蹴って、すいーーっと泳いだ。後方で、先生が気泡になるのが少し見えた。

無我夢中で校舎を駆け回って何かを探す。何か大切なものを私は探しているのだと気づく暇もなく走った。しかし全然見つからない。だって知らない校舎だから。私の通ってた学校じゃなかった。だから構造とか間取りとか分からなくて、とにかく手当たり次第探した。生徒が教室や渡り廊下から私もチラチラ見るけど、私はお構いなく必死になった。浮遊感だけを頼りに。いくつかの教室を見て回り、四つ目の教室にたどり着いた時、ようやく探し物を見つけた。その子はポカンとした顔で私を見てた。変人だと思われてもいい。後で怒られてもいい。それでも私はこの子が必要なんだ。教室で帰りの準備していたその子に近づいて「会えて良かった」と抱きしめた。





起きてから考えたのだがその子は顔も知らない子だった。つまり知らない校舎で知らない子を探していたのだ。詳しくは分からないが夢占いをするならば、その子はきっと私の一部なのだろう。そして私はその子を得ようともがいてる最中だった。大人になるにつれて失っていく、人を無条件で信じて信頼する気持ち。これからもっと大人になる私に、道を見失わないように大切なことを教えてくれる純情。純情こそがその子だ。大人になり社会の悪に触れた私は、その子を一度手放してしまった。しかし私には必要不可欠なものだった。だから私の目の前に現れたのだと思う。その子を持ち得ない私はもぬけの殻のように人生を諦めた日々しか送れなかったから。目指すべき指標、かつまた私の一部になるもの。こんな未来をもう一度取り戻すんだよ、とチラ見せしてくれたような夢だった。そんなことを思わせる一点の曇りなき綺麗な水と澄んだ校舎に、ただ見とれていた。


あるいはこの春、学生を卒業して社会の海に放り込まれる私が切望する社会が具現化した姿かもしれない。

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気泡ぷくぷく 春夕は雨 @haluyuha_ame

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