過去の遺産

バブみ道日丿宮組

お題:過去の作家デビュー 制限時間:15分

過去の遺産

 嫌になってやめ、書くという実践は消えたが、実績というのは消えない。

 たびたび編集者から連絡がくる。

 新刊出しませんか、と。そのたびにお断りの連絡を返すのだけど、3ヶ月も経てばまたくる。悪気はないのであろう。

 売り上げランキングで上位になったこともある。シリーズは未だに人気があるというのをネットで見た。

 編集者は出せば売れる。そんなふうに思ってるかもしれない。

 けれど、僕にはあの忙しい日々に戻る気はしない。

 楽しく、辛く、悲しかった。歳だけが大きくなり、周りとは距離ができてしまったのだから。

 友だちは結婚し、子どもが生まれ、遊びに誘っても家族がというのが多くなった。他の友達も年中忙しいのか、連絡すら返ってこない。

 毎日暇してる僕がいけないのかもしれない。

 働かないで済む印税生活は、何かを捨て去ってしまった気がする。

「……」

 パソコンに向かい、キーボードを叩く。

 入れたり消したりで、内容は出来上がらない。

 そういえば、後輩から読んで感想を聞かせて欲しいとデータをもらってたんだ。できたら、添削もしてほしいとのことだった。

 文字を打つことはできなくなってるけど、誰かの作品のお手伝いぐらいはできるかもしれない。

 そう考えると、パソコンに作品を表示し読み始めた。

 物語自体は非常にシンプルだった。

 異世界人の転校生がやってきて、異世界に旅立つという。主人公が実は敵側というのはあまりみない。世界を滅ぼすために異世界に、そこにはまり、最後まで読み終えた。

 いくつか気になった部分にメモ機能で挿入し、1000文字ほどの感想を書いた。

「……」

 胸の奥がじーんとした。

 感動したというわけではないのに、どこか気分がよかった。

 添削したデータと感想をメールで送ると、すぐに感謝との返事がくる。

 その後、またパソコンに向かってみると、手が動いた。

 内容が頭に浮かんでないのに、文字が文章になり、節を作った。

 3時間ほど経過すると、1万文字の短編が出来上がってた。

「……できたな」

 何を書いたのか正直わからない。

 勢いのままにひたすら筆を進めた。

「……ん」

 後輩からメールがきてた。

 添削した部分は全然気がついてなかったとのことだ。感想も思ったものと違うものが見れて、良かったとのことだ。

 どうせならと、後輩に出来上がったのを送ってみることにした。

 大したものじゃないし、へぇというくらいの返事がくるだろう。

 そう思ってたはずなのに、部屋のチャイムが数時間後鳴った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

過去の遺産 バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る