異世界転生漫画家(の孫)の取材報告帳

真偽ゆらり

報告書をちゃんと書けない女『マゴノ・テンセイ』

「これは……日記?」


 取材と称した旅から帰った冒険者兼漫画家のマゴノ・テンセイから受け取ったノートを読み終えた担当編集は首を傾げた。


「んな!? 何を言ってるんすか、これは取材報告帳っす!」


 そう言ってマゴノは担当編集からノートを取り返し、自身が取材報告帳と称したノートを読み返す。


『 春先の頃

 爺ちゃんから聞いた白い騎虎ライドラがいたとされる虎人族の郷ドールフトラッヘンに行商隊の護衛ついでにやってきた。


 騎虎、めっちゃ可愛い。

 成猫くらいの大きさの猫形態はもちろん、人を乗せて走る虎形態のどっちも可愛いかった。

 でも、懐いてくれない。残念。

 まぁ人によっては虎形態は怖いと思うかも。

 

 騎虎は虎形態の大きい状態が騎虎本来の状態らしい。ちなみに猫形態になると体重も猫並みに軽くなるんだとか。


 騎虎に乗る騎虎騎乗者トライダーの免許取得を目指し郷の訓練コースを走る免許講習受講者の猫系獣人の人達にスケッチしてもいいか頼んだら心良く引き受けてくれたどころか、愛騎虎と一緒に色んなポーズをとってくれてとても楽しかった。

(転送済みスケッチ1〜30)

 スケッチ23の飛びかかる騎虎の絵は会心の出来だったと思う。お礼にスケッチの写しを渡したらとても喜んでくれたのは漫画家冥利につきるね。


 騎虎も人と同じで個性があり身体の模様も一頭一頭違っていたが免許講習場に白い騎虎はいなかった。


 お昼はなぜか族長夫妻と一緒に頂く事に。

 族長夫人の手料理はめちゃくちゃ美味しそうで思わずスケッチしてしまった。

 (スケッチ31〜33)

 虎子舞って品種のお米はもちろんキノコ出汁の味噌汁も香草狼牛ハーヴルフのハンバーグのどれも絶品で思い出しただけでも涎が…………………。

(文字の滲みは涎なんで触らないで)


 食後の緑茶も落ち着く味だったので爺ちゃんへのお土産に買っておく事にした。

(緑色の袋)


 仕事場を此処ドールフトラッヘンに移すのを帰ったら相談しようと思う。騎虎は可愛いし、料理も美味しい。近辺に生息する魔物が強めなのはアレだけど、この郷の人達の大半が私や爺ちゃんの作品の大ファンで凄いチヤホヤしてくれるんだもん。(ここ重要)(超重要)


 族長一家も私と爺ちゃんの大ファンだって!

 美味しい料理のお礼にたくさんサインしちゃった。まさか爺ちゃんの処女作の初版本が出てくるとは思わなかったけど。

(次来る時は爺ちゃんの生原稿持って来よう)


 族長の娘さんの愛騎虎が白い騎虎らしい。

 実物は見れなかったけど確か。ブラッシングに使うブラシについた毛は白かった。蒼い毛もあったから実物は白に蒼の毛で模様なんだと思う。

(証拠品 ケースに入れた白い毛と蒼い毛)


 本当は白い騎虎を見る為に族長の娘さんの元へ向かったんだけど、ちょっと色々あって見るのが叶わなかった。決して忘れたわけじゃないよ?


 娘さんは親友の両親が経営するジムの運動場でお婿さんと鍛錬に励んでいると聞いて向かったところ、猫系獣人族の郷で唯一の獣人じゃない男の子と出会った。


 彼が族長の娘婿。

(スケッチ34)


 主従式強制鍛錬術マスタースレイブ極限濃縮日程エクストリームと呼ばれる常軌を逸した鍛錬を彼はしていた。

 簡単に説明すると傀儡魔法で二人を繋いで主側の動きを従側で完全に再現するだけ。従側は動きを強制される為、身体の自由が効かず身体が勝手に動くらしい。その状態で朝から夕方まで延々と筋トレをさせられるだけでなく、超活性の魔法による回復で休みなく続けられる。

 

 見学していたら流動食のプロテインを飲ませる手伝いをさせられた。


 休む事も壊れる事も許されず延々と身体を強制的に鍛えさせられるとか拷問じゃない?

 

 その拷問と呼ぶべき鍛錬を彼女を守れるようになりたいからと続けられるのは愛の成せる技なのかな。正直、ちょっと引いた。


 おまけに彼にはとんでもない秘密があった。

 爺ちゃんが意味を教えてくれない言葉「あなたは日本から来た転生者ですか?」に反応したのである。


                 おわり』


「……日記っすね、これ」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界転生漫画家(の孫)の取材報告帳 真偽ゆらり @Silvanote

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ