思い出せない、記憶がある
大幸望
本文
思い出せない、記憶がある。
水を手ですくった時のように、ほんの一部しか残っていない。
昔を振り返ると、いつも他の人が輝いて見える。
時間が解決してくれるのだろうか?
そんなことはない。もう5年が過ぎた。
ノートに日付を書いても、その下に書くことは何もない。
時間じゃないなら、一体何が、解決してくれるのだろうか。
心温まる思い出が、突然降って湧いてくるとでもいうのだろうか。
そんなことはない。
お祭りの日にあるのは、一人でいる惨めさだ。
年末年始にあるのは、何もなかった一年を振り返る空虚な1日だ。
だから、何も起きない、何も思い出に残らない、日常が好きだ。
日常は、思い出に残らなくて良い。思い出を考えなくて良い。
そう思って、日常を生きてきた。
でも、本当に何もない日常なんて、ありはしない。
昨日はインスタントスープとサラダを買い忘れたし、今日はそれに気づかずに買い物に行かなかった。
一昨日は雨で気分が落ち込んだ。
突然良い思い出が降って湧いてくることはないけど、
こんな風に何かの出来事は時々降ってくる。
もちろん、悪いことだけじゃなくて、良いことも降ってくる。
今日は買い物に行かなかったけど、物陰に隠れていたインスタントのお味噌汁を見つけてすごく嬉しかったし、昨日は良い天気で気持ちが良く、ついつい近くの公園に出かけてしまった。
良い思い出はやってこないけど、何か出来事が降ってこないか、探してみることはできる。
例えば、食べたいものを探してみる。新商品を探してみる。
例えば、肩こりに悩まされた夕方には、ネットで探してストレッチをしてみる。
そんな積み重ねは、作ることができる。
別にいいんだ。
抜け落ちた思い出を、たまたま手元にないものを見つめなくても。
目を向ける先を変えれば、いろんなものがある。
そんな日々の先で、少しずつ日々の記録が埋まっていき、振り返るべき道ができていくんだ。
思い出せない、記憶がある 大幸望 @Non-Oosachi
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