アラシを呼ぶ日記(KAC2022:⑪日記)

風鈴

日記帳


 ―――――二人の幼馴染が居た。文字が書けるようになった時、執事の玄さんから二人に赤い日記帳が贈られた。



 オレには、幼馴染で結婚を誓った可愛い女子が居る。

 あっ、オレの名前は東条達也とうじょうたつや、そして、その幼馴染の名前は春日ノ宮晴香かすがのみやはるか


 保育園に入園した。

 その時、晴香が言った。

『ねえ、たっちゃん!一緒だよ、ずっと一緒だよ!大好き!』

 そう言って、オレのほっぺにチュー(*´з`)したのだ!


 小学校入学前になった。

 その時、晴香が言った。

『ねえ、たっちゃん!一緒だよ、ずっと一緒だよ!学校も一緒に行こうね!』

 そう言って、オレに・・・・(*´з`)は無かったが、手を繋いできて、一緒に公園へ遊びに行った。


 う~んと、たしか、公園に来たら彼女は直ぐに手を離して、彼女の友達の所へと走って行っちゃったな。


 たぶん、恥ずかしかったんだろう。

 もう、小学生になるんだからな。


 それからは、彼女と手を繋いだことは無い。

 でも、オレは、心の手をいつも繋いでいるつもりだ!

 くっ、カッコイイぜ、オレ!!


 そうして、小学校時代は、チョコとかもなく、一緒に遊ぶことも無かった。

 なぜならオレは、東条家の跡取りとして、厳しく教育されたので、あまり遊ぶ暇のない小学生時代を送ったからだ。


 彼女もまた、春日ノ宮家の長女として、厳しく教育されたので、帰っても遊ぶことなく、お稽古事や家庭教師による勉強をしていた。


 彼女とオレの親同士は、仲良しのようで、よく連絡を取り合っていたようだった。

 なぜなら、よく、晴香ちゃんのおうちではってのを聞かせてくれるからだ。

 家庭教師の先生に中学生の勉強をもう教えてもらってるらしいわよとか、晴香ちゃんは今度ピアノコンクールで県大会に行くらしいわよとか。


 オレは、それを聞くたび、彼女より頑張らないと、彼女を幸せに出来る男にはなれないぞと思って、頑張った。


 そうして、オレは県内でも有名な中高一貫校に入学した。

 彼女は、私立の女子中学校に入学した。


 駅までバスで行き、そこから電車で通学するのだが、彼女とは、駅まで一緒のバスに乗ることが多かった。

 顔を合わすと、挨拶を交わす程度だったが、オレには愛を交わす一瞬のように感じ、彼女と挨拶の無い日は、一日が暗黒に感じた。


 もちろん、この中学時代も、彼女と遊ぶことも、話し合うことも、チョコをくれることもなく、過ぎて行った。


 高校生になった時、彼女がオレの高校に編入してきた。

 中高一貫だが、高校枠を若干名とるのだ。


 そして、奇跡的に、彼女はオレと同じクラスになった。

 オレは理系で、彼女も理系。

 理系のクラスは少ないからね。


 まあ知ってんだけど、彼女は綺麗になった。

 肩まで伸ばした髪が照明の灯りで天使の輪を作り、目鼻立ちがハッキリとした顔立ちで、笑うとその目が細くなって、頬にエクボが出来て可愛い。

 思わず、その膨らんだ頬を指でポチッと突っつきたくなるってのは、オレの胸の内にしまっておく。


 自己紹介で、男子が彼女へ送る視線が熱いのには、ちょっとイラッとしたが、それは仕方がない。

 だって、彼女は可愛いから!


 しかしだ、ここで予期せぬ事態が起こった!

 オレの前に自己紹介したヤツが、クラス全員の視線を集めた。

「僕の得意科目は全部、で、特技は・・」

 ここで、ぐるっと周りの女子だけを見回して言った。

「女の子が僕に一目惚れする事、だ!」


『はあ?バッカじゃねーか、コイツ!晴香も呆れてる・・んじゃないのか、ええっ??』

 晴香は、顔を赤らめてそのアホを見つめていた。

『いやいや、多分、あまりのアホ発言に、晴香・・いや、えっ?・・ああ、女子全員が笑いを堪えて赤くなってるにちげーねーわ!ダッセーやつ!』


 男子たちも呆気にとられて、苦笑してるぜ。

 コソコソと話し声が聞こえる。

 あいつ、全国模試で一位を取った、噂の編入生だぜ・・コソコソ。


「次、東条!」


「ああ、はい!」

 変な返事になっちまったぜ!

「えっと、東条でっす!」

 くっ、でっすだって、声が上ずっちまった。

「えっと、得意科目は全教科でっす!」

 静かな空気感が爽やかに吹き抜けた。

「えっと、得意技は・・」

 ここで、オレも女子全員を見回そうとしたが、晴香だけに釘付けになってしまった。


「得意技は・・」


 彼女がオレを眩しそうに、いや、真剣な顔で見つめる。

 おとこを見せろ、オレ!!


「早飯、早糞はやぐそ、芸のうち!でっす!」


 うん、これは決まったか?

 晴香は、ジッとオレを見ていた視線を逸らした。


 えっ、晴香に勝ったのか、オレ!


 どかーーーん!

 晴香が目を逸らした瞬間に、爆笑の渦がオレを中心に起こった。

 えっ、やったのか、オレは!!

 あのアホに勝ったのか!!


「流石は、タツ!」

「これを待ってたぜ!」

「タツ、お前の時代だ!」


「あざーす!」

 オレは、みんなに、いや正しくは、中学からの知人たちにお礼を言った。

 ちらっと、晴香を見たが、その横顔からは、ただ可愛いという事しかわからなかった。


 それから、オレと晴香との関係は、挨拶程度のモノだったが、その奥ゆかしさに、オレは愛してると心の中で、同時に唱える日々が続いた。


 一学期の期末テストでは、あのアホが学年1位を取り、オレは3位だった。

 何が、オレの時代が来ただよ!

 2位、それは晴香だった。


 もう午前中授業だったのだが、オレはちょっと寄り道をして帰った。

 家の近所まで来た時に、アレを見てしまった。

 晴香が、あのアホと抱き合ってキスをしていたのだ!

 それも、めっちゃ長いフレンチキッスを!


 オレは、家にどのようにして帰って、何を食べて寝たのかもわからない程に、抜け殻となった。

 そして、翌日、オレは、ある決意をいだいて、学校帰りに重い足を引きずりながら、晴香の家へ行った。


 ―――ピンポーン!


『はい、春日ノ宮でございます!』

『アナタは、執事の玄さん!』

『そういう貴方は、おぼっちゃんですか!大きくなられて!』


 そうして、オレは、門からリムジンに乗って、バラの花が咲き乱れ、噴水がばらまかれる庭を横切り、応接室の一つに案内された。


「苦いコーヒーのストレート、ドクダミ入りまっずい紅茶、爽やかなめっちゃ酸っぱいオレンジジュース、身体には良いがクソマズい野菜ジュース、のうちどれになさいますか?」


「もちろん、野菜ジュースを」

「かしこまりました」


 オレは、野菜ジュースを一息に飲み、お水を飲んでスッキリさせていると、晴香のお母様がやって来た。


「まあまあ、たっちゃん、おひさし~~!晴香はまだお稽古から帰らないのよ、ごめんなさいね~。だから、こっちに来て~」


 オレは、晴香の部屋に案内された。


「じゃあ、ここで待っててね~。うふふふふ、晴香の下着とか、見ちゃうのはダメよ~~!じゃあね~~!」


 お母様は、何て事を仰るのだろう?

 そんな事、マジで考えもしなかったのに!

 晴香の、そんな・・いや、ダメだ!

 これは、試練なのかもしれない!

 そうだ、そうに決まってる!


 キリストも悪魔の試練に打ち勝ったという。

 だったら、オレも出来ない訳が無いじゃないか!


 ふと、オレは、机の上に立て掛けてある本を見た。

 うん?

 あれは?


 オレは、それを手に取って、表紙を見た。

 それは、赤色のハードカバーになっているノートだった。

 可愛らしい字で絵日記と書いてある。


 ページをめくった。

 可愛らしい絵・・ちょっと幼い絵だった。

 これは、たぶん、自画像。そして、横のゴミクソみたいなのは、オレかな?

 とても幼い感じのタッチで、天才ゴッホを彷彿とさせる絵だった。


 次のページ。

 幼い字で書いてあった。

『わたしのはじめてをたっちゃんにあげました。えへへへ。』


 どかーーーん!

 オレの心の中に、爆発音が響き渡った。


 やっちまったのか、オレ?

 しかも、なんか、幼気いたいけな感じなのだが、オレって、そんな趣味だったとは!!


 初めてをありがとう、晴香!


 次のページ。

 今度は、上手な絵だな。さっきよりも格段に上手い!

 自画像と、その横は、う~ん、オンナ男のような、目が星の、外人のように手足の長いヤツが・・たぶん、オレだな!

 うん、オレ、外人なのか!

 うん、知らなかったぞ!


 次のページ。

『わたしとずっといっしょだって、約そくしちゃった!えへへへへへ。』

 約だけ漢字だ。

 うん、偉いぞ、晴香!

 うん、ずっと一緒だよ、オレ達は・・・・。


 えっ?

 雫が落ちて来たじゃねーか!

 汚しちまう!


 でも、オレの目から落ちる雫は、ちょっと止まらなかった。


 深呼吸をする。

 部屋には、晴香の香りがした。

 晴香・・・・好きだ!


 オレは、次のページをめくった。

 そこには、文字がびっしりと書いてあった。


『私は高校生になった。そして、今、とてもハッピーだよ!彼に、私の全てをあげちゃいました!もう、この幸せに、私は毎日がバラ色で・・・・』


 なんだこれは?

 えっ?

 続きを目で追う勇気が・・クソッ!でも、でも、そんな事・・。


『いつもバスで出会ったアナタとは、もうお別れです。私は、新しい幸せを見つけました。ごめんなさい!でも、私のことが好きなら、私の幸せを喜んでくれるでしょ?私達は、旅立ちます!・・・・』


 くっ!

 アナタって、オレの事じゃねーかよ!!


『私は聖女となって、愛する彼、勇者を助けて、そして、魔王を滅ぼした後に彼と、うふふふ!』


 そこまで読んだ時、オレは異世界へと転移した。

 晴香は聖女、勇者はあのアホで、オレは、勇者の従者だった。

 オレは、聖女や他の女性たちとイチャつく勇者にバカにされながら、勇者パーティーの雑用を務め、戦いの鉄砲玉になりながら身も心もボロボロに。

 でも、最後の魔王との激戦でピンチになった時、オレは、ある秘策を・・・あっ、字数制限でこれ以上は書けないや!・・・・了



「たっちゃ~~ん!何書いてたの~?見せて~!」

「帰ってきやがったか!ダメだ!」

「あっ!エッチな本、見っけ!」

「うん?どこどこ?あっ!」

「えへへへ、なになに、秘密の日記?どれどれ」

「ダメだったら!読むなよ~!」



 ――――晴香は赤いノートを読むのだった。えっ、どこからが秘密の日記だったかって?それは秘密だ!





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