元カノVS元カレ
「……ヨリ、戻しませんか? 私あなたのことが好きなので」
時間が止まった。
俺は口に入れようとしていたアナゴを皿に戻して前に座る雅を見る。
率直に言えば意味が分からなかった。
7年前。雅の方から俺を振って、俺らの関係は終わったのだから。
「雅……?」
そっと彼女の名をつぶやく。
別れてすぐの頃はとてつもなく未練があった。
『悪かった所を教えてくれ! 直すから!!』
なんてテンプレなことも言った。
それに返された、
『先輩には分からないですよ。それに…… 言って直せるとも思えません』
という言葉に打ちのめされた。考え続けて、自分の欠点を直そうと努力した。
好きだった。大好きだった。
そんな彼女に、7年越しにまた好きだって言って貰えた。
俺の人生でこの上なく嬉しいことは殆ど無かっただろう。……ついこの間までなら。
―――――――でも。
「うん、うん」
首を縦に振る。
自らに問いかけ、確認する。
「え、それって……!?」
「ヨータ……?」
俺はニコリとした笑みを、前まで本当に欲しかったソレを浮かべてくれている雅からそっと視線を外す。
そして横で名前を呼ぶ幼なじみの顔を見る。
ビックリした顔。
不安げな顔。
見飽きた顔がある。
30年間共に育った顔がある。
でも今は、でも今は。
見飽きることなどできない。
一生かけても無理だろう。
とびっきり可愛い顔がある。
大好きな顔がある。
死ぬ迄離れたくない、離れられない顔があるから。
「ありがとう雅」
失礼なことだと思う。
俺はなんて酷い奴なんだと思う。
だから色んな意味を込めて礼を言う。
忘れないでいてくれてありがとう。
好きだって言ってくれてありがとう。
そして……
正直気の迷いなんじゃないかって思ってた。
性欲に動かされたのでは? なんて思ってみたり。
でも好きだった人が目の前にいて。好きだった人に好きって言って貰えて。
この気持ちに、証拠をくれてありがとう。
最悪だ。酷い男だ。
「でもごめん。俺、今大好きな人がいるから」
「えっ!?」
横から飛び出た息を無視して頭を下げる。
そんな言葉に、どこか寂しげに微笑む雅が応えた。
「やっぱり。7年経っても直ってないどころか悪化してるじゃないですか」
落ちた涙は、俺の罪だ。
だからそれを超えて……
「おいカナ。ボーッとしてないでちゃんと食べろよ」
俺は俺のエゴを遂行しなければならない。
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