出立
「「ご馳走様でした!」」
「「お粗末さまでした~」」
声が2回重なる。
「ははっ、2人で作って2人で食べるとこうなるん面白いよね~!」
「それな。なんかニヤついてるからこういうことやりたいんだなぁと思ったわ。したらタイミングばっちし!」
「さす幼っすヨータさん」
「お主も期待を裏切らぬ女よのぉ」
2人で両手を合わせて食べ終わる。
咲く雑談に任せて、口が回る。
「料理楽しかったなぁ……」
「そだねぇ。ここでヨータさんに朗報が」
「なんですかいカナさん」
お前から聞くだけで全て朗報だよ。なんて甘いセリフがぱっと思いつくが、吐ける訳もなく。
そんな間にカナは席を立ち、ニヨニヨと笑みを浮かべながら近付いてきた。
そして机をグルっと周り、そのままぐいぐい隣へとやってきて……
「今度からは休みの度に一緒だよ!」
耳元で囁かれた"朗報"に首筋がカッと熱くなるのを実感する。
いやヤバすぎるだろ。
いやヤバすぎるだろ!!!
「そ、そうだな…… それは想像するだけで楽しそう」
「ちょっとは引越し、ワクワクした?」
「……した」
ちょっと? ちょっと!?
元々とてつもなくドキドキしていた心臓が、今ので完全にぶっ壊された気がする。
もうなんか訳が分からない。
ドキドキが止まらない。
「カナも楽しかった?」
「もちっ! 楽しかったし、もっともっと楽しみになった!」
「んじゃあ、最高に楽しい部屋探すか!」
「うん!」
時間もちょうどいい頃か。
「あっ、食器放置でいいよ。あとでやっとくべ」
「ほんと!? なんかごめんね?」
「いやいや。カナはまな板と包丁洗ってくれたじゃん。あれで十分」
「でも……」
「十分です。はい、出る準備!」
カナがバックを手に取ったのを確認して、財布とスマホをポケットにつっこむ。
「電気消すぞ?」
「うぃー」
電気を消して、外に出たら、カナが柴犬のキーホルダー付きの合鍵で鍵を閉める。
「あっ そのキーホルダー可愛い」
「わっかるー? ヨータの家の鍵だし、君に似てるの選んだんだ」
「そんな似てるか?」
いまいち何処が似ているかは分からないが、カナがそう言うならそうなんだろう。
いやでもやっぱり似てなくない?
「……俺はこんなに可愛くない」
「ははっ、そうだね! そういうことにしとこう!」
引っかかる物言いをするカナだけど、まぁいつものこと。
「そうだな。そういうことで」
「ふふっ、そういうことで!」
俺らは2人並んで近所の景色を横目に歩いていく。
「ここをベロベロのカナを担いで通ってからもう1週間かぁ」
「もうっ、ごめんてば……」
まぁアレがあったからこそ今日の朝があって、今からがあると思えば悪くない。
居酒屋の前、コンビニの前、公園の前を並び通っていく。
「なんかデートみたいだね?」
「これまでも一緒に出掛けてきただろ?」
「でも私たち、もう夫婦(仮)だからさ」
「だから?」
「こんなことしてもいいんじゃない?」
「うぉ……」
「いや?」
「……別に」
御託とともにそっと繋がれた手を払い除けることなどできるはずも無く。
俺は朝の道を噛み締めるようにゆっくりと歩いた。
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