プロポーズされたらー!? 「ゼク〇ィ!」
「……はーい」
宅飲みから約24時間後。
仕事を終え、家に帰ればもう夜9時近い。だと言うのにインターホンが鳴った。
「怪しい勧誘とか嫌だなぁ……」
嫌な予感をヒシヒシと感じながら、恐る恐るチェーンの掛かったドアを開ける。
予想は裏切らない。
俺の目の前、玄関先の廊下には土下座する白パーカーの女性が1人。
"土下座する女性"!?
「ちょっ、どうしたんよカナ! やめろ、家の前で土下座するな! 死ぬ以外なら助けてやるし許してやると思うから立て!」
そこに居たのは昨日ぶりの幼なじみ、カナだった。
まぁ土下座してくる女性の知り合いなんてコイツくらいか。
っと、そんな悠長なことを考えている暇は無い。
ドアを全開きにして駆け寄り、土下座を辞めるよう必死の説得を試みる。
「……………すみません、ごめんなさい」
「1日で変わりすぎだろ!? おい、やめろやめてくれ…… ごめん、悪かったから。俺が悪かったからご近所さんが見ちゃうからぁぁぁ」
どうにか宥めすかして家に入れ、昨日は隣同士で座っていた机を前に対面する。
「急にどうしたんよ? 借金か? 俺の貯金額で足りるなら無利子で貸してやるけど……」
「……違い、ます」
急にシュンとなり過ぎだろ。
でもそんな状態でも可愛く見える。1晩経ったら終わるかな? なんて思ってたけど、今日もまだ俺は恋してるっぽい。
「ならば本題に入れ」
「……して」
「え?」
「結婚してくだせぇ……」
その瞬間、頭の中が真っ白になった。バッと迫ってきた感情はなんなのだろうか。
驚き? 不安? 嬉しさ?
分かんないけど、次の瞬間にはもう口が動いてて。
「おうともさ! 死なねぇならしてやんよ!」
こうして俺は"好き"を実感した次の日に、偽物のプロポーズを受けた。
――――と言ってもだ。
急にこういうことになった経緯が知りたい。
俺としては少しでも近づけるなら願ったり叶ったり。
でも、コイツは俺の事を好きでもなんでもないはず。
何故このような事態に? 疑問は尽きない。
「え、そんな軽く? マジで? 私の25年くらい……」
分からないことは聞いてみよう。
驚いた表情で固まり、ブツブツと何事かを呟くカナの頭を軽く引っぱたいて質問する。
「ところでどうしてこうなった? 昨日のアレはなんだったんだよ」
するとカナは目を伏して、呼吸を1、2個入れた。
「いいぞ、言いたくないんなら……」
「いや、拙者そんな不義理は出来ませぬ……」
「口調がおかしい」
「これから話すのは語るも涙、聴くも涙な……」
「はよ」
「うぃ」
カナはいつもそうだ。
『言いたくないなー、でもなぁ……』みたいな時は毎回心の深層から武士を引っ張りだしてくる。
そして彼女が語りを始めるまで2分半くらい待つのが俺の役割だ。
今日もいつも通り俺は待ち……
約4分後。カナは口を開いた。
「昨晩うちの母上から電話がかかってきまして……」
「おばさんから? それがどう繋がるんだ?」
全くわからん。カナとおばさんは仲のいい親子で、よく電話しているのは知っている。
だけどこれと結婚がどう繋がるのかがわからん。
「それでアイツ何時になったら孫の顔が見れるの? とか言い出しやがったんですよ親分!」
「俺は親分じゃないし親をアイツ呼ばわりするな。それで? いつもの事じゃないか」
そう、いつもの事だ。それで宅飲みの時やチャットアプリで愚痴を言うまでがセット。
「まぁそうですね。……そこまでは!!」
あっ、うん。何となく読めては来たけれども。
昨日帰る間際は、マジでベッロベロだったしな。
「つまり、昨日ベロベロに酔ってたお前は……」
「いぇあ。母上様に……『え? ヨータと私たち、結婚しようか? とか話してますけど? 今日もそんな話しましたけど何か???』って言ってやったわよ!!」
「言ってやったわよじゃないわよ! いや間違っては無いけど間違ってるだろ……」
やべぇ、口調が崩れた。
兎にも角にも、唐突な土下座プロポーズの理由は理解した。
そこでまぁ疑問がいくつか。
本当ならOKする前に聞かなきゃなのだが、つい条件反射で先にOKしちゃったからな。
「いくつか聞くぞ?」
「うん。巻き込んだのは私だしなんでも聞いてね」
それなら失礼して。
「まずさ、本当に俺で良かったん? 酔ってたからって軽々しく人生キツイでしょ。今からでも冗談ですーって言えば……」
これが最初に襲って来た疑問だ。俺らはただの幼なじみだった。
偽装だろうがなんだろうが、いざ交際、結婚という道を辿るとすれば今まで通りの関係ではいられないかもしれない。
……俺はウェルカムだが、カナがどう思っているかは未知数だ。
「いいよ。別に」
「いや、だからそんな……」
「だからヨータ、私は君とが良いって言ってるんだけど分からない?」
こいつは強情な所がある。1度言い出したら聞かない。
今日もまた、その目をしていた。
いつもと違うのは俺が(え、いつもはウザったい生意気顔でも可愛く感じるとかマジでバグったか!?)とか思っている所だけ。
とにかく、この状態になったカナは動かせない。30年の経験からよーく分かる。
まぁ俺としても動かす意味が無いというのが大きいが。
「それじゃあ次な」
「うんうん、なんでも答えよう」
「……これ、籍入れんの?」
「うっ…… そうっすよね親分。事実婚のままなら実家近辺での体裁が悪く、マジ籍入れちゃったらそのままズルズルかバツ付くかなのよねぇ……」
そうなのだ。一言で結婚と言っても、オバサンを納得させてかつお互いへの傷が少ない物を選ばなければならぬ。
「親分ではないけども。……俺はカナへの負担が無いやつを選びたい。まぁこうなったのもお前のせいなんですけどね!!」
「うっ…… じゃあさ」
「ん?」
あーだこーだ言ってはいるものの、俺にとっては願ってもない機会。譲歩しつつも、有利な展開に持って行こうとしたとき。
カナが口を開いた。
「一緒に住まない?」
「は?」
「いやいやいやいや…… ヨータパイセンそんな威圧しないで貰ってもいっすか?」
すまんなカナ。これは威圧の『は?』ではなくこんな都合が良くていいのでしょうか神様の『は?』だ。
「同棲でお茶を濁そうって? ……まぁ親に言い訳するには丁度いいか。それに元々近所だからな。仕事にも差し支えねーべ」
口を回す。自分に都合の良いように回す。
ちょっと順番が違ったけど、これはビッグチャンス。
これを契機に|こいつ〈カナ〉を落としてみせる。
するとパッとカナの表情が輝いたのが見えた。
そして口が超高速で回転し始める。
「いやー、断られたらどうしようってドキドキしたよー! じゃあ来月うちのお母さんとヨータのママさんが来るらしいから、レッツ引越しだね! 明日は物件探しレッツゴー!」
「え?」
幸か不幸か。振り回されるように次々と予定が決まっていく。
でも、捲し立てられるこれがカナの照れ隠しだって知っていたから。
赤らんだ顔が垣間見えたから。
「ちょっ、聞いてないぞそれ!!」
軽く走った文句は俺流の照れ隠し。
今は5月。世間よりはちょっと遅いけど、俺たちの新生活が始まる。
「……いや、やっぱ親来襲は早めに言っとけよ」
「あはっ、すまねぇ親分!」
一昨日までは何とも思えなかった、屈託のない笑顔が見れただけでまぁ全部チャラか。なんて自分を納得させる。
……タスクと期間が見合ってない感はありますけども!
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