30歳になってようやく幼馴染への恋心に気付いて悩んでたら、次の日相手が土下座でプロポーズしてきた

譚織 蚕

宅飲みしてたら好きだと気付いた

「ははっ、それマジで言ってる? あのヨータが課長とか信じれんわぁ」


「俺も結構頑張ったからな。今日ばっかりは褒めてくれてもいいぞ? つーかそういうカナはどうなんだ。仕事順調か?」


「んー、まぁぼちぼちかな。やっぱ30にもなると違うね。最近はプロジェクトのメイン任される様になったし、新人教育もしなきゃだし大変だべ」


 突然だが俺は今猛烈にドキドキしている。


 缶チューハイを開けつつ雑談する隣の彼女の存在に猛烈にドキドキしている。


「そういや課長なっちゃったら時間もっと無くなるでしょ? 恒例の宅飲み会も今日で最後ですかねぇ……」


「い、いやそれはどうかな。課長になったってカナとの宅飲みはするでしょ。こっちに友達も殆どいないし、今更幼馴染との繋がり切るんはキツいわー……」


「なになにー、そこまでしてカナちゃんに会いたいかー! いやー、照れますなぁ」


「はっ、今更照れるとかないでしょ。30年も一緒にいるんだからさ」


「つまらんことを言いおって。まぁそれもそうだけど」


 いや、御免なさい。カナさん御免なさい。


『はっ、今更照れるとか無いでしょ』

 なんてカッコつけて鼻息までつけてみたものの、俺自身の内心はとても照れ照れだ。

 なんなら30年目の今の方が人生で1番ドキドキしているまである。


(おかしいだろ。コイツいつの間にこんな可愛くなりやがったんだ!?)



――――20分前―――――――


「ヨータは結婚とかせんの?」


「いや相手おらんのはお前も既知」


「あ、ごっめーん。煽っちゃったかー。あちゃー…… 可哀想なヨータ君…… おーいおいおい」


 俺とカナは生まれた頃からの幼なじみ。

 幼小中高大までずっと同じ学校で、就職しても近所だった。


 何度か疎遠になったもののやっぱり縁は切れず、今でも月イチで宅飲みが続いている。


 今日もいつも通り宅飲みが始まり、数十分。


 唐突にカナが結婚の話題を振ってきた。


「嘘泣きやめい。そういうお前も相手おらんやろ。そろそろおばちゃん煩いんじゃねぇん?」


「ぐっ…… それは禁止カードやろヨータぁ」


「先にそれ切ったのお前だけどな」


 いつものような軽口の応酬。

 さすがに俺らも社会に出てそこそこ。この手の話題は今までもポツポツと出ていた。


 ―――――でも


「……じゃあさ、私らで結婚せん?」


「え、お、おま……」


 酒の量だろうか。

 それとも着ていた服?

 距離感はいつもと同じ、ぴったり横。

 いつもとの違いは分からない。


 でも何故だか分かんないけど。

 今日この台詞を吐かれた瞬間、それいいなって。

 いや、それしか無いって心臓が1回返事した。


「ちょっ、ちょっとなにマジになってんの~?」


「あ、あぁごめん」


 景色が変わった。ぼーっと見つめる先には、30年見飽きた顔がある。

 指摘されて頭を振るけど、心臓がドキドキしてしまって。


「ははっ、それでもやっぱ死活問題だよなぁ」


「そうなんよねぇ……」


 咄嗟に話題を逸らそうとするものの、心臓がずっと煩い。

 しかも話題が思ったより遠のかない。


「実際この時代、晩婚しても良さそうだけども」


「ふっ、うちらの地元にそんな最先端な考えが根付いているとでも?」


「……もう死んでる臭くね?」


「それはある」


 確かに成人式で結婚発表してた奴らもいたし、それが10年前。

 2年に1回の同窓会毎に連れてこられた子供の数が多くなっていって……


「やべーべ」


「べーべべーべ」


 カエルみたいに輪唱する仕草さえ可愛い。


 兎に角、俺もカナも帰省する度に親にどつかれている身。


 この気持ちに気付いてしまった以上、ここでコイツを捕まえとくのは悪くないかもしれない。


「じゃあさ、やっぱり……」


 もう30だ。決めた時にやらなきゃダメだってことにはもう気付いている。


 一世一代の告白をしようとして俺は……


「課長になっちまったから時間取れねぇんだよな!!」


 チキった。とてもチキった。


 いや、冷静に考えて無理だろう。


 ―――――30年。

 それこそ何回か『好きかも? いや好きなんじゃね? こいつだって……』みたいな状況になったことはある。


 が、その度に勘違いだと思い続けてやってきた。

 もう俺らの関係性は友達なんかでも、恋人なんかでも測れない家族だ。

 家族に好意を抱き、今の心地いい関係を変えるなんてできない。


 上の空になりながら、ドキドキを隠して会話を続ける。


 そのまま冒頭に戻り……



―――――――――




「じゃあな。今日もう遅いし早く寝ろよ」


「ヨータおめぇは私のママか!? おめぇこそとっととおネンネするんだよ!」


「荒れるな荒れるな……」


 俺はドキドキしっぱなしのまま飲み会をどうにか終え、近所の彼女の家まで送り届けてきた。


 今日は進展は無かったけど、後退は無かったハズ。


 俺は告白するかどうかの段階からじっくりと取り掛かっていこうと決意した。


 ……のだったが!

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