第13話

 一夜明けて、作戦通り、蓮宮が単独で九条のマンションへ潜入した。


 蓮宮は、九条の部屋のインターホンを鳴らし、しばらく待ったが、反応は無かった。もう一度鳴らし、

「突然すみません。旭日出版の記者の蓮宮と申します。ちょと、お話しを伺いたいのですが、今よろしいでしょうか?」

 そう声をかけてみが、反応は無い。それでも、蓮宮はそこに夕方まで居続けた。


 マンションの住民が訝し気に見て、警戒しながらオートロックを開けて入っていった。しばらくすると、二人の警備員が来た。

「こちらで、何をしているのですか?」

 警備員に質問されたが、悪びれることなく、

「ここの住民の九条さんに用があるんです。ご自宅にいらっしゃるはずなんですが、返事が無くて、心配しているところです」

 と答えた。

「とりあえず、あなたの身元を調べされてもらいます」

 身分証と名刺を見せて、素性を明かしたが、それでも疑いは晴れず、警察へも確認の電話をしている。しばらくして、

「身元は確認できましたが、住民の方との関係性が分かりませんので、ここを通すわけにはいきません。住民の安否はこちらで確認しますので、お引き取り下さい」

「そう、分かったわ。でも、気を付けて。吸血鬼がいるの。怒らせないでね」

 蓮宮が声をひそめて言うと、警備員は怪訝な表情を見せた。

「さあ、もう行ってください」

 面倒くさい女を、手で追い払うような動作をした。


「犬じゃないのよ。失礼ね」

 蓮宮はマンションから出て、向かいの雑居ビルの屋上へ上った。そこから、九条の部屋を覗くと、人影が見えた。

「あの子だ」

 それは銀髪赤眼の少女だった。そして、

九条くじょう誠二せいじ……」

 九条が少女の隣に立っていた。

「起きていたのなら、出てくれればよかったのに。おかげで、警備員に追い出されちゃったじゃない」

 蓮宮は文句を言いながら双眼鏡を覗いていると、警備員が部屋に入って来て、九条と何やら話をしている様子だった。本人であることを確認したのか、警備員は部屋から出て行った。

「まったく、もう。お邪魔虫だわ。でも、警備員に目を付けられちゃったし、カメラにも映っているから、しばらく近付けないわね。困ったわ」

 一度、双眼鏡から目を離した瞬間、また、あの時のような背中がぞくりとするような感覚があった。振り返ると、そこには少女が立っていた。予測していたから、尻もちはつかなかったが、その不気味な佇まいは、二度目でも慣れなかった。

「あなた、突然、人の背後に現れるのは良くないわ。びっくりするでしょ。でも、良かったわ。話しがしたかったのよ」

 蓮宮が言うと、少女は、マンションのベランダにいる九条へ目を向けて頷いた。そして、蓮宮を小脇に抱えた。次の瞬間、九条の部屋のベランダに移動していた。

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