第9話

「あれの目的は何だ?」

 五十嵐が誰ともなしに言うと、

「血を求めているのよ」

 蓮宮が言った。

「あれが吸血鬼だとして、二度もここに現れたのは何故だ? もっと狙いやすい者を選べばいい」

「目的が血でないななら、五十嵐さんたち三人の誰かを狙っているとか?」

 榊原が言った。

「その理由は何だ?」

「例えば、欲しい物を持っているとか、知られたくない情報を握られていて、始末しようとしている、とかですかね」

 榊原が言うと、皆の視線は蓮宮に集まった。狙われているのは彼女だと確信したように。

「え? 私? 何もないわよ。何も持っていないし、何も知らないわよ」

 蓮宮は動揺した。あれに狙われていることを知ったからではなく、何かを隠しているからだと刑事たちは直感で分かった。

「俺はあんたを守ると約束した。秘密にしていることを話してもらおうか。そうでなければ、俺はあんたを守りきれない」

 落ち着いたトーンで五十嵐が言った。


 蓮宮は観念したように語り始めた。


 蓮宮が、ヴァンパイア伝説を特集にしようと考えたいきさつは、SNSのある投稿がきっかけだった。

 それは女性が一人で目覚めたホテルの部屋での事。首筋に違和感を覚え、手で触れると、血で手が濡れたという。いつ出血したのか分からない。ホテルへ来た記憶もない。首筋の血を洗ってみると、そこには二つの傷があった。それは映画で見るような吸血鬼に血を吸われた跡のように見えたという。

 そのような投稿が、他にもあり、『大都会のヴァンパイア』という都市伝説として、一部でささやかれていた。

 これを知った蓮宮は、投稿者にアポイントメントをとって、取材をした。そこで、ある男が浮上してきた。それが九条誠二だった。直接会って取材をしたいと考えた。その準備として、九条の素性から調べる事にした。


 九条は法律事務所で真面目に勤める司法書士だった。勤務態度も良く、人間関係でもトラブルはなかった。自宅マンションは、勤務先から自転車で十分ほどの距離にあった。高給取りのようで、セキュリティも万全で、勝手に入って調べる事は出来なかった。そこで、外で張り込んで数日、九条の行動を観察していた。彼はいつも一人、同居人もいないようだ。

 ただ、気になったのは、時々、若い女に声をかけて、ホテルへ行くと、いつも一人で出て来て、女は部屋から出てこない。そして、いつもの黒いビジネス用のカバンに加え、保冷バッグを持って出てくるのだ。

 蓮宮は感づいた。ヴァンパイアはこいつだと。若い女をホテルへ誘い、その首から血液を採っているのだと。そう思うと不気味な男だった。

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