お兄ちゃんの日記を読んでしまった

夜炎 伯空

お兄ちゃんの日記を読んでしまった

「私はお兄ちゃんのことが大好きだ」


 辛いことや悲しいことがあったら、話を聞いてくれるし、嬉しいことがあったら、一緒に喜んでくれる。


 欲しい物を我慢していたら、誕生日に買ってくれたり、私が好きなおやつをよく作ってくれる。


 宿題が分からなくて悩んでいると、声をかけて教えてくれて、テストでいい点をとると何故かいつもご褒美をくれる。


 上げ出したらキリがないくらい、お兄ちゃんは私のことを大切にしてくれている。


「どうして、そんなに私のことを大事にしてくれるんだろう?」


 その答えは、お兄ちゃんの日記の中にあった。


 ◇


 お兄ちゃんは、日記を書くのが趣味だ。


 今まで、何度も「見せてほしい」と言っても、日記だけは何があっても見せてもらえなかった。

 他のことは、何でも「いいよ、いいよ」と言ってくれるのに。


 すごく見たい気持ちはあったけど、お兄ちゃんに嫌われたくなくて、私はずっと見るのを我慢してきた。


 その日記が、開かれた状態で目の前にある。


 お兄ちゃんに用事があって部屋に入ったんだけど、日記を書いている途中で寝てしまったようで、お兄ちゃんは机に伏している。


 私は、自分の好奇心を抑えることができなかった。


『俺の妹は最高に可愛い。こんなに可愛い妹と家で毎日一緒に過ごせるとか、俺はなんて幸せなんだ』


「ふぁ!?」


 日記を読むと、冒頭にとんでもないことが書いてあり、変な声を出してしまった。


 お兄ちゃん、起きてないよね……


 お兄ちゃんの様子を確認するが、寝息を立てているので、まだ眠ってくれているようだ。


『でも、そんな妹と実は血が繋がっていないとか。俺は自分の気持ちを抑えるのに必死で……。そういった意味では、毎日が地獄だ』


「え、え、どういうこと、お兄ちゃんと私は本当の兄妹じゃないの!?」


「ん、里奈りな?」 


 バタン!!


 目を覚まして私に気がつくと、お兄ちゃんはものすごい勢いで日記を閉じた。


「み、見た?」


「ううん、見てないよ……。それよりも、お兄ちゃんに用事があって来たんだけど」


「お、おう、何の用事だったんだ?」


 動揺しながらも、優しくそう聞いてくれたお兄ちゃんに、私は嘘をついてしまった。


 日記に書かれていた内容は衝撃的だったけど、お兄ちゃんに嘘をついてしまったことの方が、今は胸が痛かった。


 ◇


「ごめんなさい。昨日、実は日記を見てしまって」


 私は頭を下げて、お兄ちゃんに心から謝った。

 あれから、ずっと考え続けたけど、やっぱりお兄ちゃんには嘘をつきたくないと思ったから。


「やっぱり、見られてたんだな……。自分のこと書かれて、気持ち悪かったよな。許せないと思うけど、もう日記は書かないようにするから、できれば許してほしい。それで、今までみたいに兄妹として……」


「嫌」


「……そうだよな、ゴメン。もうすぐ、高校も卒業するから、四月になったら家を出てくよ」


「ちょ、ちょっと待って! そうじゃなくて、今までみたいに兄妹の関係で終わりたくないというか、そういう意味で……」


 勝手に覗いて嘘をついたのは私なのに、どうしてお兄ちゃんが謝ってるの?

 お兄ちゃん、私に優しすぎない?


 それに、私が言いたかったのは、お兄ちゃんと両想いだと分かって、恋人同士になりたいっていう意味だから。


「え、それって、もしかして、里奈も俺のことを?」


「……うん、そういうこと」


 私は恥ずかしくてうつむきながら返事をした。


「よかった。ずっと、不安だったんだ。一方的に里奈のことを好きになってしまって、この気持ちがバレたら、もう一緒にいられないと思って」


「うっ、私のこと好きとか……。でも、きっと、私の方がもっとお兄ちゃんのこと好きだよ」


 この気持ちは、お兄ちゃんに負けないと思う。


「いや、俺がどれだけ里奈のことを好きなのか知らないから、そう言えるんだよ。俺の気持ちを全部知ったら、絶対に気持ち悪がるって」


「それは、私も同じ。私がお兄ちゃんのことを好きな気持ちを全部知られたら、絶対に避けられると思ってたんだから」


「じゃあ、勝負するか?」


「望むところよ」


 売り言葉に買い言葉で、私達はお互いに好きな気持ちを一時間かけて告白し合った。


 ◇


「俺達、何してるんだろうな……」


 お兄ちゃんが我に返って、そう言葉を漏らした。


「わ、私は、嬉しかったよ。お兄ちゃんの気持ちを聞けて」


 嬉しすぎて、一生分の幸せをここでもらってしまったかもしれない。


「里奈。急に、それはズルいぞ。俺も嬉しかったに決まってるじゃないか」


 お互いに同じ気持ちだったということが分かって、私達は思わず大きな声で笑い合った。


「お兄ちゃん、大好き!!」


 今まで、心の中にしまってきた想いを、私は思いっきりぶつけて、お兄ちゃんに抱きついた。 








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