飼い犬に手を噛まれる

第1話

　7月20日

　きょうは、ジョンとこうえんであそんだ。

　ぼくがボールをなげると、ジョンははしってボールをおいかけた。

　ずっとボールであそびたかったけど、サッカーするからどけって言われた。

　どけって言われて、ぼくはないちゃった。

　なきながらかえっていると、知らないおじさんがはなしかけてきた。

　ボールあそびできるとこを知ってるよって言った。

　どこかおしえてほしかったけど、ジョンがわんわんないたらおじさんははしってどこかにいっちゃった。

　7月21日

　きょうはおかあさんに外にいっちゃだめって言われた。

　さいきんはぶっそうだからって。

　だからきょうは、ちかしつであそんだ。

　ジョンとフリスビーであそぼうと思ってたけど、ちかしつだとできなくてかなしかった。

　ジョンがわんわんないてうるさかった。

　外に出られなくてかわいそうだから、ジョンにおとおさんのおつまみのビーフジャーキーをこっそり食べさせてあげた。

　7月22日

　きょうもおかあさんに外にいっちゃだめって言われた。

　きょうはおかあさんがいつもよりもイライラしている。

　おかあさんはちかしつにこないから、きょうもちかしつであそんだ。

　本をたくさんよんだ。

　きのうはずっとないていたジョンもきょうはしずかにしている。

　あしたは外にでられるといいな。

　7月30日

「この子は、嘘ばっかりね」

　私は、息子の絵日記を見て呟いた。

　毎日書いていると言っていた絵日記は三日坊主。

　しかも、内容までが嘘。ジョンなんてウチにはいない。

「はぁ……」

　息子の嘘にはいつも辟易させられている。

　夏休みの上に、物騒な事件があったから家から出れず、ずっと息子は家にいる。

　せめて、外に遊びに行ってくれないとずっと一緒だとストレスがたまる。

　思えば、夏休みの初日から、息子の嘘に困らされた。

　エマちゃんとボール遊びをしていて、その帰りに知らない男に声をかけられたにもかかわらず、エマちゃんとは遊んでないという大嘘をつかれた。

　旦那は、女の子と遊ぶというのが恥ずかしい年頃なのだろうなどと言っていたが、時と場合を考えて欲しい。

　まあ、息子にはエマちゃんがその日に失踪したことを伝えていないので、いつものように嘘をついただけなのだろうが。知らない男に声をかけられたなど失踪に関係しそうな情報を嘘をついて黙っているなんて––––

「………………」

　日記を読み直す。

　夏休み初日の7月20日の日記。

　女の子と遊んでいるのが恥ずかしくて、嘘をついて男の子の名前に変えているだけで、他の内容は本当だとしたら。

　私は地下室に急いだ。