ゴーストライター

義仁雄二

第1話

「この中に死んだはずのKさんを語り、遺書を偽造した犯人がいる」

 探偵が事務所に集めた疑わしき7人の人物に向けて宣言した。

 この場にいるのはKの知り合いらしい探偵を含め、 Kさんの叔父で探偵と顔馴染みの刑事、Kの後妻、Kの二十歳になる無職の義理の息子、Kと頻繁に連絡を取っていた霊媒師、Kの死体を発見した同僚で幼馴染の親友、Kと揉めているのを目撃されたことのある自称ウェブライターの男、Kが死んだホテルで働く前科のある清掃員の八名がいた。

「おいおい、全ての遺産は義理の息子と後妻に譲ると書かれてたんだろ。だったら犯人なんて丸わかりじゃないか。一番利がある後妻と義理の息子に決まっている」

「まあ、普通に考えたらそうなりますよね」

 清掃員が言ったセリフにウェブライターが同調した。

「後妻さんがそんなことするはずがないだろう!」

 親友が立ち上がって否定した。

「親友さん……」

「そうだよ僕と母さんがそんなことするはずないだろ。何もしなくても遺産が転がり込んでくるんだから遺書を偽装する必要なんかないじゃないか。馬鹿なの」

「なんだと!」

「おいそれは本当なのか?」

 清掃員とウェブライター、義息子と親友がにらみ合っている中、刑事が探偵に確認した。

「ええ。彼の遺書が偽装だ判断した理由は二つあります。一つは遺書に書かれた後妻と義息子の名前と、遺書が入っていた封筒に書かれた後妻と義息子の名前の字が違うという点です」

「そんなの偶々家族の名前が書いていた封筒を再び使っただけかもしれないじゃないか」

 ウェブライターが言う。

「ええ、しかし資産家のKが自分の遺書の手紙にそんな貧乏くさい真似するとは考えにくい。何より彼はIT系で成り上がった人物。何十年も前に亡くなった前妻に当てた手紙以外、アナログなことよりデジタルを好んでいました。そしてこの封筒の筆跡を調べてみたら親友さん、あなたのものと一致しました」

 一瞬驚いた顔をした親友だが、思い出したと手を打った。

「……ああ、確かに後妻と義息子に手紙を送ったことがある。彼の誕生にサプライズパーティーを計画していた時やり取りしていたからな。その時のものだろう」

「そうなんですか後妻さん」

「え、ええ……」

 確認する探偵に後妻さんは気のない返事を返した。

「そうですか、わかりました」

「それで、もう一つの根拠はなんなんだ?」

 何やら納得顔の探偵に刑事が聞く。

「もう一つの根拠は、筆圧が薄いことです。止め、はね、はらい、そういった文字の形はKさんのものでしたが、普段のKさんのものより遺書は筆圧が薄かったのです」

「でもKは病気だったんだろ。病気が原因で衰え、ただ力が入らなかっただけじゃないのか?」

 刑事が言う。

「確かにその可能性もありますが、突然の死の原因が病気だと判明したのは彼が亡くなった後解剖したからです。それまでK自身も自分の病気のことは知らなかった。ところで霊媒師さんとKさんが頻繁に連絡を取って会っていたのは、胡散臭いことですが前妻の霊と会いたかったからですね?」

「はい。定年退職し、仕事一辺倒だったKさんは寂しさと、ないがしろにしていた後悔の念から私に亡き前妻様と交流したいと私に依頼されました」

「死の二日前にKが前妻へと書いた手紙を霊媒師さんから借りました。その文字は今までと変わらず筆圧が濃い状態でした。以上の事からこの遺書はKさんではなく、別の人物が書いたと判断できます」

「で、結局その犯人はだれなんだよ」

 焦らすなと義息子が苛立ち混じりに探偵を急かす。

「まあ落ち着いてください。一つずつ順に明らかにしていきましょう。まず――」

「すみません。ちょっといいですか?」

 意気揚々と自分の推理を披露しようとする探偵に霊媒師が割り込んだ。そして、

「それ全部ここにいるKさんと私がやりました」

 と言った。

「はあ?何言ってるんですか、Kさんは死んでるんですよ」

「ええ、ですから幽霊の彼とです。私が交霊憑依してその手紙を書いたんです。筆跡が同じなのはそれが理由で、筆圧が薄かったのは私が女だからです。封筒はKさんが一つだけ所持していたのを見つけたあたしが丁度いいと思い勝手に使っただけです」

「いや……いやいや、そんな非科学的なことがあるはずない!私が調べたところ、親友さんと後妻が実は不倫関係で、ウェブライターが実は前妻の従妹で、清掃員はKを脅す材料を探すために、刑事は後妻と実は年の離れた兄弟で、うわっ!!」

「きゃあ!?」

「地震か!?」

 暴露する探偵を止めるかのように突如部屋が揺れ始めた。その揺れは直ぐに止んだ。

「Kさんは全てを知っています、その上でもういいと言っていますよ探偵さん」

 突然の大きな揺れに一人だけ動揺していなかった霊媒師が淡々と告げた。

「き、君は今のがKが起こしたポルターガイストだとでも!?」

「ええ、その通りです」

「そんな馬鹿なことがあるはずないだろ!」

 そう叫んだ探偵の後ろの窓ガラスがピシっと音を立ててひび割れた。

「ひっ!」

 探偵は腰を抜かし、地面にへたり込んだ。

「貴方が信じようが信じなかろうが、それが事実です。現実は存外驚きに満ちていますが、意外にもつまらないものですよ」

 霊媒師はうっすらと笑みを浮かべた。

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ゴーストライター 義仁雄二 @04jaw8

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