第2話〈後編〉 桜
1枚だけ、掴めた桜があった。
けれどその一枚は、すぐに僕の手から離れてしまう。
なぜなら、目の前に君を、見つけたから。
僕のいる並木道に現れた君は、青いワンピースを着ていた。
なぜ、というよりも、今までどこにいたのか、という思いのほうが強かった。
――1ヶ月間、僕に姿を見せることのなかった君が。
手にスマホだけをもって、僕の目の前に現れた。
突然、僕は恥ずかしくなって、花びらを掴んだ手を背後にまわしていた。
その瞬間だった。
ファサ、と一気に桜が鳴った。
隣の木も、その隣の木も、そのまた隣の木も、植わっているすべての木の枝が揺らされ、ともなって沢山の花びらが君と僕に降りかかってきた。
数十秒後、一面桜色の視界を抜けて僕が見たものは、幸せそうに笑っている君だった。
君の喜んだ顔が見られて、僕は嬉しかった。
そして、するり、と、気付いたときには、手のひらから花びらは落ちていってしまった。
でも別によかった。
君にあえたし、何より君の笑った顔が見れたのだから。
・・・ただ、何回も挑戦してやっと掴めた花びらが手の隙間からこぼれていくのは、なんとなく名残惜しかったのだけれど。
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