6人が60の国を600年で殺すまで

緋稲

エピローグ

エピローグ

 荒野にて。


 三万を超える軍勢は、わずか六人の戦士たちによって、屍の山へと姿を変えつつあった。


「血がッ!血が美味いッ!やはり人の血は最高だ!!」


「……わかる」


「ギル…それやめたら?中盤でやられる戦闘狂ボスみたいなセリフだよ」


「……そうよ、やめて」


「ミィ、アンタ…さっき同意してたわよね…」


「ほらお前ら、騒いでねえで動け、とっとと終わらせるぞ」


「わかったアッシュ!いっくよ〜!ティリアスーパーアターック!!」


 彼らは談笑しながら、しかし確実に、毎分にして数百もの命を散らしていた。それは正気の沙汰ではなく、常人が見れば確実に鬼畜のそれである。対して立ち向かうことに躊躇いを見せない木端の集まりすら、また異常である。


 この地獄が地獄たる所以は、まず間違いなく談笑する六人にあった。彼らは人々を殺し、歴史を殺し、文明を殺し……すなわち、国を殺していたのだ。したがって、そこな木端どもは被害者でしかない。逃げ場を失い、親しい者の仇を目の前にした、憐れな被害者である。


「……最早儂が出る他あるまい…皆の者、後は頼んだぞ」


「モウド将軍……」


 本陣におけるそんなやりとりは、しかし六人の破壊者の耳に入っていた。


「みんな!向こうの凄いのが出てくるってよ!」


「へぇ…まだそんな隠し球をとっておいたのね。私が出ようかしら?」


「待てエルム、ここは俺が行こう」


「そ、よろしく」


「……頑張って」


「おう…大丈夫だ、どうせすぐ終わる」


 会話の最中、兵が道を開け、一人の老将が現れた。


「我こそはモウドなり!貴様がアッシュだな!」


「そうだ、知ってんなら、やるぞ」


 こうして熱く激しい戦いは…始まらなかった。相対した刹那、片方の首が宙を舞ったからである。


「終わったぞ、やれスマルト」


「はいはい、すぐ片付けようとするんだから…広域殲滅用機関銃『シュニーシュトーム』起動」


 人という生き物は、理不尽に希望を打ち砕かれるだけで思考をやめてしまうらしい。抵抗を止め跪いた人々の頭蓋には、無慈悲なまでに弾丸が打ち込まれ、血をはじめとする生々しい赤色を桜吹雪のように散らしていった。


「掃除が大変ね、『渦状流砂と終わりなき海ラグ・オケアノス』」


「……『ミシェル=ノストラダムス』」


 残る兵たちも、とんがり帽子を被った制服少女【エルム】と、赤く大きめなパーカーに身を包んだ幼…少女【ヴァーミィ】の手によって、前者には底のない蟻地獄へ飲み込まれ、後者には沸騰した大地に骨まで焼かれるという地獄へ誘われた。


「大将、この国は幾つ目なんだ?」


「今ので48個目だ、あと12で終わる」


「えー!?みんなでこうして戦えるのも、あと十二回までなの!?」


「戦い足りんぞ!スマルト!帰ったら一発どうじゃ?」


「遠慮しておくよヘーゼル、頼むならエルムとかにしてくれ」


「は?なんで私がこんなおっさん相手に組手しなきゃいけないのよ!」


「それにティリア、終わった後も僕らはずっと一緒さ」


「ほんとに…?ずっと一緒にいてね!スマルト!」


「無視すんなー!」


 これは、彼ら六人の戦士たちが六十もの国と文明を六百年の歳月の中でひたすら殺していく物語である。

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