第1話 入籍は突然に

このままこの場を去ってしまったら、この二人にとって良くない未来しか浮かばない。


全てを新婦に丸投げなんて、新郎としてやっちゃダメなことぐらいわかるでしょう?


咄嗟に口にしそうになった言葉を何とか飲み込むと、自分を落ち着かせるために大きく息を吸った。


思うところはたくさんあるのだが、ただのプランナーが口を出していい問題ではないことはわかっているし、今までもそうしてやってきた。


いくら蒼空と知り合いだからと言って、このスタンスを崩すわけにはいかないのだ。


「由華ちゃん、ちょっといい?」


吉崎様に向かってそういったのかと思ったが、蒼空の視線は私を捕らえている。


「あ、はい。ではお見送りさせていただきます。吉崎様、少々お待ちくださいませ」


ぎこちなく微笑んだけれど、吉崎様は軽く頷いただけで、蒼空から顔を逸らしたままパンフレットの視線を落としている。


蒼空の背中を追うように出入り口に向かうと、立ち止まり私を振り向いた。


「お仕事も大切ですしお忙しいとは思いますが、新婦様お一人で全てを決められるのも本当に大変です。ぜひお二人で話し合われて、より良いお式になさってください」


こんなことを言っては駄目だとわかっているはずなのに、どうして私はこうおせっかいをしてしまうんだろ……。


反省したけれど、出した言葉は戻らない。


誤魔化すように笑顔を見せると、蒼空は困ったように溜め息をついた。


「由華ちゃんには俺が無責任に見えるよね」


『そうだね』とはっきり答えるわけにもいかず、私は曖昧に首をかしげてみせた。

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