第1話 入籍は突然に
例えば今、私の目の前に座っている新郎新婦。
新婦の方は新郎の意見を何も求めることなく、ひたすらに映える結婚式をご所望のようだ。
一方新郎の方はというと、本当に結婚する気があるのかと聞きたくなるほどに、無関心という言葉を顔面に張り付けている。
私の「新郎様もそれでよろしいですか?」という言葉に、視線も合わせずに「彼女にお任せします」というテンプレートな言葉を返してくる。
出会って間もないお二人だと聞いたが、この二人は結婚してから上手くいくのだろうかという、余計な詮索をしてしまいそうになるほどの温度差を感じる。
もちろんこういったことはよくあることで、なにもこの新郎様だけが特別なわけではない。
五年以上もこの業界にいれば、いろんな関係性を目の当たりにすることがある。
意見の食い違いから大喧嘩をはじめ、結婚式を取りやめて別れてしまうカップル。
結婚式直前に新郎様の最後の過ちが発覚し、式をキャンセル破局したカップル。
横暴な新郎様に逆らえず、虐げられていた新婦様など、挙げればきりがない。
そんなヤバいカップルを思えば、この新郎様は穏やかで、最少人数でという自分の意見以外は、新婦様の意見を全て聞き入れてくださっている、優しい新郎様だと言えるだろう。
しかし私はどうもこの新郎様が気になって仕方がなかった。
どうしてだと聞かれると答えようもないのだが、このやさしさの内に隠された無関心さが気になって仕方がなかったのだ。
だからだろうか。
「あら、新婦様と私の名前、一文字違いですね。こんな偶然初めてです」
と、余計な言葉を口走ったのは。
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