真夏の雪が溶けるとき

植原翠/授賞&重版

親愛なるスーニャ

『親愛なるスーニャ。


 お元気ですか? 僕は相変わらずです。今年で二十七歳になりました。

 君と出会った夏から、もう十五年が経ちました。今年も、僕らの街では蝉が鳴いています。』



 便箋に文字をしたためて、僕は窓の外を見た。

 真っ青な空に入道雲が浮かんで、庭木の緑が日差しに透けている。涼しい風がさわさわと木の葉を揺らし、蝉の鳴く声が反響する。

 あれから十五年か。もっと遠い昔のことのように感じるけれど、未だに忘れられない。今でも目を閉じれば、瞼の裏にあの夏の情景が鮮明に浮かぶ。

 あれは、小学六年生の、夏休みの出来事だった。

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