不幸な私(リア充)と、幸せそうなあいつ(陰キャ)
@atmosphere0124
第1話 蟻女とゴキブリ男
クラスに変な男がいる。
「先生、マック行ってきます」
教室内が静寂に包まれる。
「い...今、授業中だが?」
「すみません、間違えました」
「だ、だよな。そんなわけ...」
「マクドナルドに行ってきます」
「そういう問題じゃ...っておい!勝手にいくな!」
変な男が教室から飛び出した。
しばらくの静寂の後、教室がざわめきだつ。
「田仲くんまた変な事してるね」
「てかキモいよね」
「空気読めてねえよな」
私は、あいつが嫌いだ。
こんなに周りに嫌われてて、悪口も言われている。
実際に気持ち悪い行動ばかりしている。
ただ、一番嫌いなのは...
それでもなお、幸せそうな顔をして生きている。
そこが一番、ムカつく。
☆ ☆ ☆
「絵理ー、あたしメロンパンとコーヒー牛乳ね」
「甘いものばっかりだと太るよ、みゆきちゃん」
「ダイエットしなきゃねー。ごめんねーいつも」
「全然いいよー。ミンスタの投稿で忙しいんだよね!」
「そー。お願いねー」
みゆきちゃんからお金を受け取り、いつも通り購買へ向かった。
みゆきちゃんは決まって、メロンパンとコーヒー牛乳を昼ごはんに食べる。
パンと飲み物を買い、教室に戻る途中、最悪な出来事が起きてしまった。
「痛っ!」
「わ、悪い」
曲がり角で、とある人とぶつかり、パンと飲み物を落とした。
それを、その人が拾い私に渡してきた。
「大丈夫?」
「...」
この学校で一番嫌いな人と出くわす。
田仲 伊織(いおり)。
生粋の変人で、みんなに嫌われている。
陰キャラ中の陰キャラ。
そんなやつと、今私は出くわしてしまった。
「怪我はないか?」
「ん」
「どうして、目を合わせないんだ?」
「なんでもいいでしょ...。それじゃ」
こんなやつといるところを見られたら、私の評価が下がってしまう。
それだけは、絶対に嫌。
「クソみたいな生き方してんな」
呟くように、そんな声が聞こえた。
無視だ。
無視するのが一番良い。
適当にやり過ごせば面倒はなく、私は美味しい昼食を友達と楽しむことができる。
そうするのが正しいんだ。
「今、なんて言ったの?」
わかってたのに、無意識のうちにそう口にしていた。
「クソみたいな生き方だって言ってんだよ」
「あんたみたいな変人に、私の何がわかるっていうの?」
「やっとで、俺の目を見たな。腰抜け」
頭に血が昇っていく。悔しさと怒りで握ってるパンを潰しそうになる。
「あんた、何がしたいの?空気読めてないし、皆あんたの事が嫌いだよ?」
「皆の話なんてしてない。俺は今、お前と話をしてるんだ」
徐々に周りに人が集まってきている。
それでも、こいつに一泡吹かせなきゃ気が済まない。
「それに皆って誰のことだ?お前にそのパンをパシらせてるやつらのことか?」
「パシリじゃない!友達を助けるのがそんなに悪いこと!?友達がいない、あんたにはわからない!」
「そんな下らない友達なら、俺はいらない」
どうしたと見かねた友達が私に近づき、肩を抱き寄せ、田仲を睨みつけた。
チャンスと思い、私は泣きまねをし始めた。
周りは私を心配し、味方となる。
「田仲なんかほっといてさ、ご飯食べに行こうよ」
「また田仲かよ。早く退学になっちまえよクズ」
そんな声が次々と上がり始め、田仲は完全に孤立し始めた。
泣きまねを続け、内心ざまあみろと蔑みながら田仲に目をやった。
「本当に、下らねえ」
心底見下した目を向けられたが、この状況だ。
どっちの方が下かは一目瞭然。
本当、ざまあみろ。
☆ ☆ ☆
「田仲、お前佐々木を泣かせたらしいな」
放課後、複数人の男子が田仲の机を囲み、そう問い詰める。
「だったらなんだ?」
「お前、最近調子に乗りすぎじゃね?」
「ちょっと、ついてこい」
そう言って、強引に田仲を教室の外へと連れて行き、この場を去ってしまった。
「田仲ボコられんじゃね?ウケる」
みゆきちゃんがスマホをイジりながら、そう口にした。
「う、うん。ウケるね...」
「絵理は気にすることないから。自業自得でしょ。帰ろー」
「う、うん...。ありがとう、みゆきちゃん」
みゆきちゃんが先を歩き、私は後ろをついていく。
『クソみたいな生き方してんな』
ふと、あいつの言葉を思い出した。
あんなやつ、どうなっても良い。
むしろ、いい気味だ。
普段から人に信頼してもらう努力をしてないからこういう目に遭うんだ。
みゆきちゃんの言う通りだ。
自業自得。
「みゆきちゃん、ごめん。教室に忘れ物をしたから取りに行ってくる!先帰っててくれない?」
どうして、あんなやつのことなんて気にするのだろう。
どうでもいいはずなのに。
「マ?だるー。はいはい、んじゃねー」
「ごめんね?ありがとう。じゃね!」
振り返ることなく、みゆきちゃんがこの場を去っていった。
その後ろ姿に少し胸が痛んだ。
『そんな下らない友達なら、俺はいらない』
うるさい。
下らなくなんてない。
一人よりかは、ずっとマシなんだ。
☆ ☆ ☆
「これに懲りたら、もう調子に乗んなよ」
「女の子しか泣かせられないのかよ。しょうもねえやつ」
そう言って、顔や服に血の痕がついた状態で倒れ込んでる田仲を残し男子たちが去って行った。
間に合わなかった。
「た、田仲くん?大丈夫?」
「...」
田仲くんが顔の血を袖で拭きながら、無言で立ち上がった。
フラフラと歩く姿に心を痛め、支えようとすると
「触るな!」
と手を振り解かれた。
「ご、ごめんね...?こんな事になるなんて思ってなくて」
「話しかけるな。虫唾が走る」
強い拒絶に胸が締め付けられる。
ふと、昼休みの出来事を思い出した。
大丈夫?と聞いてきた彼に対して、私も同じことをしたんだ。
田仲くんもこんな気持ちになっていたんだ。
「馬鹿みたい...」
彼に向かっての言葉ではなかった。
「なんだと?」
ただ、そんな胸の内を田仲くんが知るはずもなかった。
「少なくても、お前よりかはマシな生き方してると思ってるよ!いつも気持ちを抑えて、ヘラヘラと楽しくもねえのに笑いやがってよ!気持ち悪りいんだよ!」
鼻血を吹き出しながら、彼がそう叫ぶ。
不覚にも、その姿に見惚れてしまう自分がいた。
胸の内をそのまま言葉にする事は、どうしてこうも、私の心をざわつかせるのだろう。
「だけど、私は今無傷であんたは血まみれ。これが現実じゃないの?」
彼の言ってる事に心が納得している。
ただ、彼を認めたくはなかった。
絶対に、認めるわけにはいかなかった。
「目に見えるものだけしか見てないから、お前は下らないんだよ」
「は?どういう意味?」
「自分で考えろ、蟻女」
蟻女...。
確かに彼はそう言った。
これは本当に意味がわからなかった。
状況が状況だけに、唐突な蟻女発言に、少し笑いそうになってしまった。
「なに?蟻女って?」
聞いてる時、少し笑っていたと思う。
「あ?蟻ってなんか、何も考えずに周りに合わせるように一生働き続けてんだろ。だから、お前にピッタリだと思って...、って何聞き返してんだよ!馬鹿にしてんのか?」
「な、なるほど。そう言われたらしっくりくるね」
「納得してんじゃねえよ!」
そのあだ名を一人でせこせこと考えていたことを思うと更におかしくなってしまった。
「絶望的なネーミングセンスだね」
「うるせえ。笑うな」
「私が蟻女なら、田仲くんはゴキブリ男だね」
「ゴキブリ男?」
「基本一人で行動して、そこにいるだけで皆に嫌われる。ピッタリじゃない?」
我ながらセンスの良いあだ名を付けたものだと感心している。
「下らねえ」
「なっ...」
「今のお前と馴れ合うつもりはねえ。帰る」
そう言って、彼は私に背を向けこの場から立ち去っていく。
心がほぐれ、少し分かり合えるのではないかと思っていたのは私だけだったらしい。
また、私から背中が遠ざかっていく。
振り向くことも...
「ただ、いつものへばり付いたような愛想笑いより、さっきの笑顔は何倍もマシだったな」
振り向き、彼はそう言いながら、少しはにかんだ。
「鼻血でてるよ」
「う、うるせえ!」
怒りながら、彼は今度こそこの場を立ち去って行った。
この胸の高鳴りで、赤く染められた顔を見られる事はなかった。
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