第499話

その日、幾度目かになるスートタ王国とドンエ帝国の戦は今までとは違った様相を呈していた。


「も、もうだめだー!」(棒)

「貴重な物資も、大事な食料も放棄するしかないー。」(棒)


猫耳の少女と、黒い鎧を身にまとった少年が大声でそんな事を言った後、スートタ王国側の兵士達は即座に撤退を始めた。


「おっ?スートタの連中今日はさっさと引きやがったぞ!」

「いつもは影様が出てくる迄粘るくせによー!」

「物資不足の噂は本当だったみてぇだなぁ!ぎゃはははは!!」


撤退する王国兵を嘲笑い、追撃を始めようとする帝国兵。だがそこに1人の兵士が駆け込んで来た。


「おいお前等ちょっと来い!滅茶苦茶豪華な飯が在るぞ!」

「なっ!?あいつ等物資がねぇんじゃ無かったのか!!」

「傍に在った手紙には全線で戦っている兵士の為に、最後の食料で豪華な食事を用意したと書いてあったぞ。」

「マジか!!いっつもまずい携帯食で腹減ってんだよなぁ・・・・。」


帝国は物資の生産をしていない。奪い、奪った物を使いさらに奪う。強奪国家として周辺国から略奪を繰り返していた国だった。だからこそ、地味に長く続くスートタ王国との戦で徐々に物資は枯渇してきており、食事も満足に取れなくなって来ていた。


「なぁ、上の奴等には伝えたのか?」

「あん?伝える訳無いだろ?あんな旨そうな飯。」

「・・・・。俺達で食っちまうか?」

「その為に呼びに来たんだよ。1人で食ってたら見つかっちまうしな。」


ニヤリと悪い笑みを浮かべる兵士達。そして、料理を発見した兵士に連れられて大きな天幕がそのまま残されている場所に案内される。


「うっほぉ~、滅茶苦茶豪華じゃねぇか!!」

「なんだこの良い匂い!ジュルリ・・・。駄目だ匂いだけで涎が・・・・。」

「見た事ねぇ物ばっかりだな!」


天幕の中に在る巨大なテーブル。その中央にデンと自己主張をする子豚の丸焼き。その脇にはローストビーフが控え、コンソメスープやピラフ。パエリア等の米料理も見える。新鮮な野菜のサラダに、チーズフォンデュ迄用意されていてかなり豪華な食卓だ。帝国兵は料理の名前が解らなかったが、それでもうまそうな飯に涎を滝の様に流す。


「な、なぁ。もう食おうぜ。俺腹減った・・・。」

「そ、そうだな。バレる前に食っちまおうぜ!!」


天幕に連れてこられた兵士達は眼の前の食事に我慢できなくなり、次々と手を伸ばしていく。


「う、うめぇ!!」

「こんなうまいもの食った事ねぇ!!」

「手が、手が止まらねぇ!!」


次々と料理を口に運ぶ兵士達。そして・・・・・・この日、30名の帝国兵士が突如として姿を消した。


「いやぁ、こうもうまく行くとはなぁ。」

「ルド君のビルダーの力がおかしいのよ。」


王国の兵士から戦況の話を聞いて俺は自分がやった事の成果を知った。つっても俺は唯料理アイテムを作っただけなんだけどな?イルセアの案に乗っかった訳だがこうも簡単に引っ掛かるとは思わなかったわ。普通警戒するもんだろう?


因みに今回作り上げたアイテムはこれだ!


審飯:その名の通り、食べた物に審判を下す料理。カルマ値が高い程身に降りかかる不幸が強力になる。


バフ

断罪力強化

カルマ値上昇

味覚強化

食欲増進

旨味UP

理性崩壊

隠蔽


うん、食えば食う程犯罪者になるアホみたいな料理が出来た。しかもバフの効果で一口食えば止められなくなるっていう罠付き。王国の兵士には絶対に口にするなって言っておかないと行けない代物だ。


そんでもって身に掛る不幸の最上級が存在の消失。元々この世界に居なかった事にされる訳だ。俺なら怖すぎて一口も食えねぇよ。


なお、このアイテムは攻撃力を持っていないアイテムなので作成出来た。何せ食った本人の罪過で効果が変わるアイテムだからな。俺が任意で攻撃力を持たせている訳じゃないって扱いらしい。


「それで?王国兵の方はどうなった?」

「そりゃもう、敵の居なくなった平原を悠々と占拠。ついでに近くに在った街も占領しちゃったって話よ。これもルド君の料理の力ね。」

「そっちは普通にバフ盛りの差し入れだからな。問題は追加注文が来ない事か・・・・。」

「あら自分で作って置いて知らないの?あのアイテム耐久値が在るみたいで、1度使えば後何回使えるか表示されるのよ?」

「まじでか?」

「えぇ、1個のアイテムで20回使ったらアイテムは消失するわ。」

「だからパパに追加で作って貰ってたんだよ?」


あぁ、何回もバフ料理頼むから王国兵はかなり苦戦してるんだと思ってた。


「これで嫌がらせの第1弾は終わりね。そろそろ敵さんも警戒して食べなくなるでしょうし。」

「まぁ前線に居る筈の兵士がどんどん減って行ったらさすがに怪しむか。」


その頃前線では。


「ひゃっはーーーー!!豪華な飯だーーーー!!」

「俺だーーー!俺のもんだーーーーー!」

「飯飯飯飯―――――――!!」


イルセアの忠告とは全く逆で、軍の指揮官迄罠料理を食べて姿を消していた。


「それで?第1弾って事は次が在るのか?」

「えぇそうよ!名付けて『王国兵を強化しちゃおう作戦』よ!!」

「イルセアママネーミングセンスが無いね。」

「(゚д゚)(。_。)(゚д゚)(。_。) ウンウン」

「いやぁ、俺も似たようなモノだから・・・・。」

「ちょっとなんでそんな可哀そうな人を見るような目をするのよ!!」


べ、別に同類を見つけたと思ってたりしないぞ?本当だぞ?


「それより王国兵の強化ってどうするんだ?それなら旅人を強化した方が良く無いか?」

「旅人の強化は後回しになるわ。王国兵の強化なら同じ装備を作り続けるだけで良いから簡単になるし、人数差を埋めている兵士さん達が強くなればその分旅人達の負担も減るのよ。」


現状旅人達は前線を押し上げる役目をしていて、占領地の護りや残党狩りなんかは兵士達が行っている。旅人と違って1度死ねば復活しない訳だし、旅人側も負担を掛けない様に矢面に立っているのが現状だ。


「でもそんな事出来ると思うか?俺は鍛冶素人だぞ?」

「そこは貴方のクランメンバーに丁度良い子がいるじゃ無いの。」

「ルリちゃん!」

「( ´∀`)bグッ!」

「ルリに教えて貰いながら鍛冶仕事をするのか。」

「ちゃんと本人から了承は貰ってるわよ。明日にでも前線から戻って来てくれるわ。」

「ディアに迎えに行って貰えばすぐだろ?」

「ディアちゃんが前線に行ったら絶対に狙われるから駄目よ。」


あー、最初の戦闘で堕とされた飛行船の残骸を帝国兵が回収しようとしたって話も在ったな。制空権がこちらに在るから何とか押し返せている現状、向こうに空を飛べる方法を渡すのはまずいって事か。


「その内影に模倣されそうだけどな。」

「それは大丈夫よ。最近影はずっとルド君の姿をしているって話だし。」

「パパの姿じゃないと血が使えないからだよ。パパの力が無いと守り切れないもん。」

「(・∀・)ウン!!」


他の大陸の目ぼしいイベントが終わって、このグルンジャ大陸の厄災イベントが今一番盛り上がっている。その分旅人達がこの大陸に集まって来ていて、実は火力だけならもう帝国を堕とせるくらいになっているとメガネ達が教えてくれた。


だけど影の奴が俺の姿をして防衛に出てくると、押し切れなくなって戦場が膠着するらしい。その間に他の場所を占拠してジリジリと前線を教え上げているってのが現状なんだとか。俺の劣化コピーも大勢いるみたいで一定の場所からは進んでいないみたいだけどな。


「そう考えると料理の嫌がらせ作戦は前線を押し上げる手伝いになったのか。」

「そうよ。そして王国兵士も身を固めて戦える様になれば、もっと前線を押し込むことが出来るわ。」

「まぁ俺の所為で皆に迷惑掛けちまってるからな。出来る範囲で装備の制作をやってみるさ。」

「そう言うのを待っとったで!!さぁ早速鍛冶仕事を始めよか!!」


ぬおっ!!突然店の入り口を開けてルリが入って来た!!ずっと前線に行っていたから会うのは久しぶりだな。


「そんな事はええからはよ仕事はじめんで!!」


さて、嫌がらせ第2弾の始まりだな。」


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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