第329話

〔愚かなもの共に我等の力を見せよう!!〕

〔この力に恐れ慄くが良い!!〕

〔〔スワグウィル!!〕〕


私達の目の前に居る泥上の怪物が早速動き始めました。ただやる事はと言えば体を渦の様に回転させるだけ。ですがその本当の威力は想像を絶する物でした。


「なっ!?城が飲み込まれて行く!?」

「このままでは崩れますわ!他の出口は無いんですの?」

「それならこちらに!!皆さんも急いで!!」


自らの体を渦潮の様に変化させた化け物は、その力で周囲の物を無造作に吸収し始めました。それに伴って地上に在った城の部分も崩れ、どんどんとあの化け物に飲み込まれて行きます。


私達はアニスちゃんの案内で直接城の外に出る通路から脱出。何とか無事に全員があの地下室から出る事が出来ました。


「あー、かなり大きくなったねぇ。」

「あんなん絶対勝てへんやん!?どうするんこれ!?」

「どうどう、お姉ちゃん落ち着いて。」

「そんな、お城が飲み込まれる何て・・・・。」

「あの大きさじゃルドさんでも受け止めきれませんね。」

〔〔恐れ崇めよ!王の誕生である!!〕〕


城や周囲の地形まで飲み込んだ怪物は、飲み込んだ分だけ体を大きくして今や見上げる程の巨体となりました。この状態でさっきの技を使われるとまずいですねぇ。“使えたら”ですが。


〔何を笑っている?これから貴様らは死ぬのだ。気でも触れたか?〕

〔王になった我等の力をやっと理解したか?だがもう遅い。貴様らを踏みつぶした後は忌々しい首都の者達を倒して私が君主だ!!〕

「いやぁ、滑稽だなぁって。」

「昔から追い詰められた敵っていうのは変身するか、巨大化するか、一旦逃げるかしてまた立ち向かって来ますからね。」

「それを私達が想定していないとお思いですの?」

「うち全然考えてなかった・・・。」

「私もだよお姉ちゃん・・・・。」

〔〔戯言を!!〕〕

「そう思うなら空を見上げて御覧なさいな。」


ルゼダちゃんが指さした先には、白い大きな翼の姿が在りました。


『想定パターンP!!準備は!』

『魔法使い達による魔力の同調と攻撃魔力の属性変換完了!いつでもいけまさぁ!!』

『攻撃目標は突然出て来た怪物だ!!砲術長外すなよ?』

『あんなデカい的、目を瞑ってても当てられますよ艦長。くぅ~この台詞が言える日が来るとは!!と言う事でファイアー!!』


ドドドン!!


私達が見上げる先、上空待機していたウィンドルから“青白い光り”を纏った砲弾が放たれ一発も外れる事無く目の前の怪物に命中しました。


〔〔ぐぉぉぉぉぉっ!?〕〕

『着弾を確認!!攻撃は・・・・有効!相手の足を止めました!!』

『すぐに第2射準備!!』


着弾した所から徐々に氷が生え始め、泥の体は凍って行きます。不純物が多いので完全に固体になるには時間が掛かっていますが、それでも格段に動きは遅くなりました。


〔なぜだ!?なぜこのような事が!!〕

〔私達がこの姿になるのを予測していたとでも!?〕

「まぁ半分は、ですが。」

「まさか泥になるとは思っても居ませんでしたわ。」

「巨大化は想定していたけどね。まぁどんな姿になっても対応できるようにしておけば何も心配はないって僕達は考えた訳だ。」

「その為に今回の作戦に参加した人達で意見を出し合い最悪を想定して色々準備していました!!その1つがウィンドルから放たれる魔法弾の属性変換システム、略して『変わるちゃん』です!!」

「絶妙にださい名前やなぁ・・・。」

「アインさんも後で名前を変えるって言ってました。」

「えっ!?名前変えちゃうんですか!!」


良い名前だと思ったのに・・・・。とその事は置いといて、変わるちゃんの効果はウィンドルに搭載されている魔導兵器の属性を変えるという物です。普段の武装属性は無属性。何も属性が乗っていないからこそどの敵にも有効ですが、弱点属性を突く事が出来ません。しかーし!!この変わるちゃんが在れば魔法使いの力を借りて放つ魔法弾の属性を変換できるのです!!魔力装填システムに魔法使いさん達が干渉して属性を変化、調整して放つ魔法弾はどんな敵に対しても有効打を放てますよ!!


「魔力変換をする際に魔法使い職のMPを大量消費してしまうのがネックですわね。」

「機関部に張り付いている皆さんは今頃倒れてると思うよ。」

「うへぇ。何回でもすぐに使えるっちゅう代物やないんや。」

「でも2発目の準備してるんでしょ?どうやって?まさかMP回復する手段が見つかったとか!?」

「残念ながら見つかってませんわ!!ですが今なら出来る作戦が在りますの。それは・・・。」

「「それは?」」

「人海戦術ですわ!!」


今回のクエストに参加したクランから魔法使いを借りてウィンドルに乗ったままにして貰いました。戦いたい!!という人にまでは強制できませんでしたし、自由意志を尊重しましたがそれでも十分運用出来る人数が乗っていたはずです。


『第2射準備完了!!』

『てーっ!!』


ドドドドン!!


〔ぐぬぉーーーー!!〕

〔体が、体が凍る!?〕


確実に命中する魔法弾、そこからさらに凍結は進んでいきます。さすがにこの事態は想定していなかったのか、怪物が慌ててますね。それを見ながら私達は観戦の構えです。


「これほど有効だとは、準備していて正解でしたわね。」

「ここまで来たら消化試合かな?油断は出来ないけどね。」

「旅人も結構な数が飲み込まれてるから、何かしてくるかもね。」

〔こうなれば!!〕

〔取り込んだモノを使うまで!!〕

「すごいなぁ、リダお姉ちゃん達ぽんぽん敵の思考を読んでる。」

「この場合開発の人の考えが浅いんちゃうか?」

〔〔行くのです!マッドパペット!!〕〕

『回避!!』

『余裕!!』


ウィンドルめがけて泥の塊が発射されます。ですがまぁ、そんな簡単に空を飛んでいるウィンドルに命中するわけもなく、飛び出した泥は空中で勢いを失って地面に堕ちます。そしてその泥は地面に広がった後再度集まり、人の形を取りました。武器や防具を持っている事から取り込んだ兵士や旅人の物を奪って流用しているみたいですねぇ。でも良いんですか?そんな事をしたら・・・・。


「ひゃっはーーーー!!」

「お宝の山じゃーーー!!」

「倒した奴の装備は倒した奴の物な!!」

「止めろ!!それ俺が苦労した集めた装備何だから!!勝手に倒すな!!持って行くなぁぁぁぁぁ!!」

「いやぁぁぁ、私のレアドロップ返して!!」

「うるせぇ!!早い者勝ちだ!!」

「さんざん自慢していたあなたの装備、今度は私が使ってあげるわ!!」

「「「「「「「祭りじゃーーー!!」」」」」」」


あーあーあー、泥人形が身に着けている装備がドロップとして落ちると解って、旅人達が我先にと攻撃を仕掛けます。レア武器だろうとそうじゃなかろうと、一旦敵の物になってしまった物はその敵を倒した人の物。そりゃ欲しい人は目の色変えますよねぇ。


〔なんと俗物的な・・・。〕

〔我等よりも醜い・・・・。見よ、あそこでは同士討ちもしておるぞ・・・。〕

「いやぁ、彼等も私利私欲の為に怪物になった貴方達には言われたくないと思いますよ?」

「それにぼーっとしている暇はないんじゃありませんか?もう体のほとんどが凍ってますよ?」

〔〔なっ!?いつの間に!!〕〕

「そりゃ立ち尽くしてる的が在ったら攻撃続けるやんなぁ?」

「だよねぇ?」


旅人達が泥人形を倒している間にもウィンドルからは砲撃が飛んでいました。つまりそれだけ怪物の体が氷漬けになって行くという事で・・・。地面に接している部分はもう完全に厚い氷で覆われてしまっています。力を手に入れた事で慢心してくれて本当に良かったです。


〔くっこうなれば!!〕

〔一度引いて態勢を整えるのみ!!〕

「「「「「「「「「「「ですよねぇ。」」」」」」」」」」」」

〔くぅっ!!この屈辱は忘れんぞ!!〕

〔覚えていなさい!!〕


ドンッ!!


泥の頂上から1人分の塊が発射されました。恐らくあれが本体。なればこそ、今が攻める時!!


「ってはやぁっ!?」

「遠距離攻撃がかすりもしていませんわ。」

「呑気に言ってる場合じゃないよルゼダ!!このままじゃ本当に逃げられちゃう!!」

「ウィンドルからの追撃は?」

『属性変換装置に不具合発生!!武装が全部止まっちゃいましたぁ・・・・。』

「あれま。こらあかんな。」

「逃げられちゃう!!」


どんなふうに逃げようとも捕らえるつもりで私達が待機していたのですが、空を飛んで逃げるとは!しかも空に逃げた時に追撃するはずのウィンドルで障害発生です!!


〔ふはははは!!我等にも運が向いて来た!!〕

〔必ず!!必ず貴様らに復讐を!!〕

〔〔さらばだ!!〕〕


高笑いを上げながら飛んでいく泥の塊、私達はそれを唯見送るしかありませんでした・・・・。


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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