第197話

あの後、とりあえず地竜を俺のインベントリに放り込んでシアを迎えに行った。シアの奴は店の裏の訓練場でボロボロの状態で倒れているのが発見された。


「まにあわなかったの。」

「聞いたぞ?親父達が逃げる時間を稼いだんだって?凄いじゃないか!!」

「でもくやしいの!!」

「だったら強くならないとな。まぁレベルがカンストしちゃってるから別の方法を一緒に探すか。」

「ぱぱのあたっくをさがすよりはかんたんぽい?」

「うるせぇよ!!それより今は鈴の中で休め。」

「はーい。」


シアを鈴の中に入れた後は病院にカマーンさんの様子を見に行った。するとカマーンさんは病室におらず、処置室に入ったと医者から言われた。


驚き慌てる親父となんで慌てていたのかを知って一緒になってあたふたする俺。そんな俺達に医者は極度の緊張を強いられた所為で生存本能が刺激されて予定より早く出産する事になった様だと言われた。体が産めると判断しての出産なので大丈夫なはずだとも。


現代よりも医学が進んでいないこの世界の人にそう言われても超心配な俺達。でもこの世界には魔法っていう便利な力がある。治療師が2人しっかりと付いていてくれていると聞いて何とか2人共落ち着いた。


カマーンさんが入ったという処置室の前で2人して椅子に座って待つ。シルの奴は親父の代わりに処置室に入ってカマーンさんの手を握って励ましているそうだ。


そわそわと落ち着かずに扉の前をうろうろする親父。ドラマなんかでよく見る光景だけど実際自分も親になるとしたらこうなりそうだ。かくいう俺も親父の事を見ているからウロウロはしていないが、めちゃくちゃ落ち着かない!!大丈夫だろうか?


ガチャ


その時突然扉が開き親父と俺は扉の先に注意を向ける。すると扉の隙間から『ふんがぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』というカマーンさんの叫び声が聞こえて来た。そして扉から出てきた人はというと、中の声に耳を澄ませる俺達を見てため息を吐く。中から出てきたのはシルだった。


「ルドにぃお疲れ様。地竜は倒したんだね。」

「おう、シルもお疲れ様。中の様子はどうだ?親父が気になって仕方ないみたいなんだよ。」


さっきの叫び声を聞いて扉にぴったり耳を付けて中の声を聞こうとする不審者・・・・もとい親父。扉は防音されているのかさっき程声は聞こえないがかすかに気合を入れているカマーンさんの声が聞こえてくる。


「ママは強いから大丈夫だよ。ほら見てよ。」

「うわぁ、手の形がクッキリ・・・・・。」


シルが持ち上げた手には、カマーンさんの手形であろう物が赤くクッキリと刻まれていた。


「心配だからって握ってたら手を握りつぶされるかと思ったもん。咄嗟に鱗出して防御してこれだよ?あんなに元気なら大丈夫だよ。」

「さっきの声からしても余裕そうだからな。シルは大丈夫か?」


親父から聞いた話じゃ、地竜からなんらかの影響を受けて変な言動をしていたらしいからな。兄貴としては心配だ。


「一応調べて貰ったの。そしたらリザードマンの血が混じってるから地竜の念話の影響を受けたんじゃないかって。でも抵抗できるなら心配ないって。」

「なら良かった。もし地竜に洗脳でもされたらどうしようかと思ったよ。」


もし洗脳されてたら、治療方法を見つかるまで探して治してやる気では居た。その為に市長の所に殴り込みに行って飛行船の完成を急がせる所存でしたよ?


「前の私ならそうなったかもね?でも今はルドにぃもパパもママもシアねぇも居るもん。所でシアねぇは?大丈夫だった?」


不安な顔をしながらシアの心配をするシル。俺は笑顔で懐から友魔の鈴を出して見せてやる。


「今は鈴の中で休んでるよ。明日には元気になる。」

「良かったぁ~。シアねぇが跳ねられた時に死んじゃったと思ったもん。」

「俺もシアも死なないから安心しろ。それより親父を何とかしようか。周りの目線がいてぇ。」


ずっと扉に張り付いている親父を他の患者さんが変人を見る目で見ている。その後ろから病院の責任者であろう人が何やら言いたそうな顔をして、でもその心情は解るから注意するかどうか葛藤するような表情で立っていた。


「もうパパ!!しっかりしてよ!!」

「親父、周りから変な目で見られるから扉に張り付くのだけは止めてくれ。」

「うっすまん・・・・。」


親父が扉から離れた瞬間


おぎゃあ!!おぎゃあ!!おぎゃあ!!×2


扉の向こうから赤ん坊の泣き声が二重奏で聞こえた。途端に浮足立つ親父、俺とシルも椅子から立ち上がり扉の方に注目する。


ガチャリ


中から出て来た医者。その体にはべっとりと血が付いていた。途端に不安そうにする親父。俺は一応リアルの方で出産には出血が伴うと知っていたからそこまで動揺しなかったが

、予想以上に出血が多くてびっくりしている。シルの奴は平気な顔をして立っていた。


「あっご家族の方ですか?」

「そうです。妻は、あいつは大丈夫なんですか?」

「えぇ、おめでとうございます。元気な男の子と女の子ですよ。」


医者からそう言われて安堵感からか膝から崩れ落ちる親父。そんな親父に肩を貸しながら立ち上がらせ、親父が自力で立てるようになるまで待ってから俺達は処置室の中に入って行った。


そこにはあまり消耗しているようには見えない笑顔のカマーンさんと、すでにお湯で清められたのかベットで横になる赤ん坊達の姿があった。


「わぁ~カワイイ~。」

「しわくちゃだなぁ。おっもう髪の毛生えてるのか。」


寝ている赤ん坊達の姿を見てワイワイと騒ぐ俺とシル。親父はというと、赤ん坊2人の顔をみてだらしない顔をしている。そしてカマーンさんの方を向いたかと思ったら号泣しながら「ありがとう。」と抱き締めていた。カマーンさんの方も親父の背中を叩きながら「こちらこそありがとう。」と。


色々後始末が終ってから医者からカマーンさんの退院について説明を受けた。母子の検査やらなんやらで1週間入院してから退院と説明され、俺達は急いで入院に必要な着替えなんかを取りに帰った。


だが帰った先では倒壊した建物があるだけ。あの蜥蜴に潰された家の瓦礫を俺のインベントリに放り込んでどうにかこうにか必要分の着替えを入手した俺達は病院に帰った。


「そのような姿での病院への来院はご遠慮ください。」


病院の入り口で警備の人にそう言われて、自分達が大分ホコリ塗れだと気が付いて慌てて公衆浴場に駆け込むという1幕もあったけどな!!


病室に入ると俺達の慌てっぷりを聞いて居たのかカマーンさんが苦笑いで待ってました。


「着替えは持って来た。」

「家の方はどうしようかしらねぇ。」

「それなんだがな。子供達も生まれたし店はこのまま畳もうと思う。」


親父の告白に驚く俺とシル。カマーンさんはなんとなくそういうと思っていたみたい。


「俺も守備隊の大隊長を任せられているしな。これから俺の子供が暮らすこの都市を世界で一番安全にしなきゃならん。店をやってる暇は無い。」

「貴方がそういうなら私は応援しますよ。でもいいの?前の奥さんの想いでもあるんでしょ?」

「大丈夫だ。あいつなら分かってくれる。」


親父が天井を見上げながらしみじみそう言った瞬間に親父の体が光り始めた。そして親父の顔が驚きで固まる。


「ははは、新しい家族を今度はちゃんと守れとよ。」


親父が言うにはマネバザンがたった今変化したらしい。前の奥さんの想いが詰まった技が新しい姿になった。


鬼神斧槍流 断罪悔(だんざいく)


親父が開祖の新たな流派が今ここに生まれた。そこには多分、後悔も罪も全て断ち切って先に進んで欲しいという思いが詰まってるんだと思う。これこの赤ん坊のどちらかが継承するんだろうか?どんな流派かまだ分かんないけど、親父が開祖なんだから相当強いぞこれ。


「ふふふ、大事に育てないとね。」

「あぁ、そうだな。」


笑い合う二人。シルも吊られて笑っている。さぁてこっちの赤ん坊は何とかなったけど。あっちの赤ん坊は一体どうしようかね?


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

This work will be sent to you by kotosuke5, who is Japanese. Unauthorized reproduction prohibited 


2022/7/15 今回はここまで!!ちょっと眠たい中での修正だったので誤字脱字多いかも?あと眠いからいいコメント浮かばん!!とりあえず楽しんでくれたらそれだけでOK!!ではおやすみなさい!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る