第58話

「クッソ!!あんな強い住民が居る何て聞いてねぇぞ!!」


ここは武術大会第2戦が行われているフィールドの1つ、荒野の隣に存在する砂漠フィールド。そこでプレイヤーのタッグが住民のタッグから逃走を図っていた。


プレイヤーはなぜ住民から逃げているのか。それは先ほど戦う相手としてマークし、チャンスを伺っていた相手をその住民のタッグが簡単に倒してしまったからだ。その強さを見て彼らは勝てないと判断して逃げようとして。そして失敗した。


砂に足を取られ声を出してしまったのだ。そして住民のタッグに気が付かれ、今まさに追い付かれようとしている。


「馬鹿野郎!!集団暴走を生き抜いた開拓村の住民様だぞ!!弱いわけねぇだろう!!あの時は見捨てるみたいなことしてすみませんでしたぁぁぁぁぁぁ!!」

「突然何謝ってんだ馬鹿!!さっさと攻撃して来いよ!!」

「うるせぇ!!俺が謝りたかっただけだ馬鹿野郎!!」


言い争いをしながらも必死で足を動かして逃げる2人。しかし、住民との差は広がらず、それどころか散歩をしているかのような足取りなのに、いつの間にか目の前に立ち塞がっていた。


「ほっほっほ、若者は元気で良いのー。」

「謝罪は貴方が居た村の人に言ってあげてください。そして次が在れば、力の限り守ってあげると良いですよ。」

「はいっ!!心に刻みます!!」

「おまえ!!相手は敵だぞ!!」

「良いんだよ!!」


目の前の老夫婦になぜか謝罪をし、言葉を掛けられて素直に受け止める相方に、苦言を呈するプレイヤー。あまりにも簡単に言葉を受け取るので一言言ってやりたかったのだ。


「これこれ喧嘩はいかんぞ。仲間じゃろうに。」

「そうですよ。それに、これでもう逃げられませんよ?さぁせっかくの武術大会ですしお互いの実力を出し合って戦いましょう」


喧嘩をしそうな2人を止め、威圧を放つ老夫婦。


あんたらみたいな化け物と戦えるか!!実力を出す前に死ぬわ!!

この人達は強い!!だったら自分の実力を試すために戦いたい!!


それぞれ違った思いを胸に、文句を言っていたプレイヤーは逃げ出す構えを見せ、謝罪をしていたプレイヤーは戦う構えを見せた。


「おまっ!!あれには勝てねぇって!!逃げるぞ!!」

「さっきと言ってる事違うじゃねぇか!!良いんだ、俺はこの二人に挑んで認められたいんだ!!正々堂々とオナシャス!!」

「正々堂々って馬鹿かお前!!お前盗賊だろうがよ!!」

「いつでもかかって来るとよい。胸を貸してやるからの。」

「お爺さんがそちらを相手するのでしたら私はもうお一人を相手にしますかね?どうやら逃げ出そうとしているようですし、その心根を治してあげましょう。」



2人の言い合いを聞きながら、老夫婦はニコニコと笑いながら自分がどちらを相手にするのか決めていた。


さっさと老人と相対してしまった相方に恨みの視線をぶつけながら、老婆の言葉に不穏なものを感じ取る剣士。「心根を治す」の部分に「叩き」と入りそうな予感がビンビンしていた。


「くそっ!!俺は逃げるぞ!!一人で勝手に死んでろ!!」

「勝手にしやがれ!!じゃあよろしくお願いしまーーーーす!!」

「うむ、しっかりと相手をしてやろう。」

「駄目ですよ。仲間をそう簡単に見捨てたら。いつか必ず自分にしっぺ返しが来ます。」

「ひっ!!」


お願いしますと言いながら爺さんに切りかかる相方を視界の端に捉えつつ。逃げようとした剣士、しかしいつの間にか自分の後ろに立っていた老婆に驚き息が詰まった。


「さぁ、挑んできなさい。強者に挑んだ。その事実が在ればどんな困難にも立ち向かえますからね。」

「うるせぇ!!意味のない戦いはしない主義なんだよ俺は!!あばよ!!」


砂を相手に向かって蹴り上げ、目眩ましとして使って再度逃げに入る剣士。だがしかし回り込まれてしまった。


「ふふふ、逃げられませんよ?」

「強制戦闘イベントのクソゲーかよ!」


逃げられないと悟り、剣を構える剣士。だが今だにその腰は引けている。


「ほらほら、剣を構えるのにそんなへっぴり腰でどうしますか。腰を前に出して重心をしっかりと中心に、いつでも動けるように体の余分な力は抜いて。」ピシッペシッパシッ

「いでっ、このっ、あいたっ!!」


剣を構えた剣士の姿勢を叩いて矯正していく老婆、プレイヤーは自分に何が起こっているのか分からず。いつの間にか姿勢を正されて行く。


「ほら又腰が引けてますよ。肩の力も抜いてほらっ。握りが弱くなっていますよ。」

「ひぐっ、うぅ、いたいっ!!もうやめて・・・。」


老婆の指導は続く、だが剣士はだんだんと自分の構えが様になってきている事に気が付いていない。ただ一方的に齎される痛みに涙を流すのみである。


「これこれ婆さんや、熱が入りすぎておるよ。それだと唯のいじめじゃ。」

「あら、私としたことが。ごめんなさいね?」

「うぅぅ。」


いつの間にか現れたお爺さんに止められてやっと老婆の指導が終る。救われたかの様にお爺さんに感謝の視線を向け、違和感に気が付いた。そう、お爺さんと戦っていた相棒の姿が無い。


「そちらは終わったのですか?」

「あぁ、なかなか気骨のある若者じゃったよ。強くなりたければ家においでと言っておいた。あの様子じゃと来るじゃろうなぁ。」

「あらあら、家にはリダちゃんが居るんですよ?男の子を近づけるのは不安です。」

「なぁに、村長に村で共有できる道場を作る案を出しておる。リダは家で見て、他は道場で見れば良いじゃろう。見込みが在れば内弟子じゃ。」

「はいはい、もうそこまで決まっているのなら文句は言いませんよ。」

「あのぅ・・・。」


2人の会話についていけなかった剣士はおずおずと声を掛ける。どうやら相方はすでにやられてしまったらしい、こんな化け物2人相手に逃走も戦闘も出来ない。すでに生存は諦めた。


「お2人の道場は何処に在るんですか?剣の扱い方も教えて貰えるのなら行きたいんですけど・・・。」

「あら?あなたはそんな事必要無いと仰るのではと思っていましたが?」

「その、やっぱりあいつとは友達何で、一緒にやりたいなぁと・・・。」

「ほっほっほ、構わんよ。ルド村と言う村じゃ。開拓村6番目と言えば分かりやすいかの?」

「後でちゃんとあの子にも謝っておくのですよ?貴方達が2人揃って村に来るのを待っていますわね?」

「あっはい!!よろしくお願いします!!」


いつの間にか止めを刺されていたらしくポリゴンとなって行く剣士。しかしその顔はさらに強くなるための手段を得たことで笑顔だった。


「さてと、ルド君達は何処に居るのかのぉ?」

「そのうちきっと会えますよ。それにここで戦えなくても本選がありますからね。」

「そうじゃの。さて、次の相手を探しに行くとするか。」

「もう弟子は取りませんからね?」

「見込みが無ければ声は掛けんよ。」


散歩でもするかのように酷暑の砂漠を歩く老夫婦。その姿を戦闘中もずっと荒野の空から見ていた鳥人種の住民は、相方に見たら逃げろと伝えた。だが時すでに遅く、伝えようとした相方はすでに負けて居なくなっていた。


コッコリー、今年初めて武術大会に参加した彼は、開幕早々他で争っていた魔法使いの魔法に巻き込まれ、空に飛ばされた。そしてそのまま気流に閉じ込められ、大会終了まで空を飛び続ける羽目になった。人は彼をこう呼ぶ、不運のコッコリーと。


神誼武創流 撃破数 10(5組脱落) ルド村住民(プレイヤー)+2


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

This work will be sent to you by kotosuke5, who is Japanese. Unauthorized reproduction prohibited 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る