第33話

「一体どうなってやがる・・・。」


赤蛇のリーダーは別の洞窟にあるアジトの中で頭を抱えていた。虎の子の魔法銃とLvリバースを使った戦いでの大敗。魔法銃に仕込んでいた召喚陣を使った奇襲の不発。


やる事成す事がうまくいかない。さらには仲間だったはずの赤落ち達が次々に離反しこちらを襲って来る始末。


「あんな化け物相手にするよりこっちを始末したほうがうまいぞ!!」

「お前らの持ってる武器と薬を全部こっちに寄越せ!!」


今もまた馬鹿な連中が武器を持ち襲って来た。リーダーはそちらを一瞥もせずに斧を使って襲撃者を両断していく。


その場に赤落ち達のアイテムが全てドロップし、消えていく赤落ち達。だが相手もプレイヤー、すぐに復活し何処から奪ったのか魔法銃とLvリバースを使って戻って来る。


赤蛇の拠点は今や赤落ち達の蟲毒ともいえる戦場となっていた。


「リーダー。これはまずいですよ。」

「副長か。そうだな。」


両手にナイフを構えた副長がリーダーの前に現れた。


「拠点は後いくつだ?」

「次で最後の1つです。そこはまだ我々しか登録していません。」

「そうか。」


奇襲に神器を1つ使ったのは失敗だった。リスポーンして武器を配り、薬を飲み延々と村に送り込む計画だった。だが相手によほど魔法に精通した者が居たのか召喚陣を看破。それどころか逆に召喚陣を利用してこちらを攻めようとしていた。


必死に止めようとしたが相手の力が強く、召喚陣は動作不良を起こして大爆発した。その際に地面に埋めていた神器も、保存していた武器や薬の大半も消失してしまった。


「今回は俺達の負けだな。」

「えぇそうですね。ですがいつかあの村を滅ぼしてやりましょう。」


赤蛇全体に撤退を指示し、アジトの出口を目指して移動を開始したリーダー達。目指すは国境沿いの最後のアジト。そこで再起を図る。


しかしそこに珍妙な客が現れた。


「ほっほっほ、若いというのはいいのぉ~。」

「お爺さん、気を抜いてはいけませんよ?」


鍬を持ち麦藁帽を被った老人と、ローブを着て腰の曲がった老婆。一見場違いな2人、しかしルド村を襲撃した赤落ちの中に彼らの正体を知る者が居た。


「げっ!?化け物爺!!」

「妖怪婆ぁだと!!逃げろ!!俺達じゃ敵わねぇ!!」

「ほっほっほ、安心せい。わしらは“足止め”じゃ。」

「まぁっ!!人の顔を見て妖怪だなんて失礼ですよ?」


隙を見て逃げようと考えていたリーダーは己の目を疑った。他の赤落ちが逃げ出そうとした瞬間、老人と老婆が消えた。そしていつの間にか逃げ出そうとしたプレイヤーを気絶させていたのだ。


そう、“気絶”。毒や睡眠、麻痺等の状態異常は確認されているが意識を飛ばす“気絶”と言う状態異常は今まで確認されていなかった。よく見ると気絶させられたプレイヤーの頭にはヒヨコが4匹、ピヨピヨ鳴きながら回っている。


「ほれ、もうすぐ騎士団が来るで大人しくせんか。」


その言葉を聞いて何が何でも逃げ出そうとする赤落ちプレイヤー達。しかしこの二人相手に逃げる事は出来なかった。


なぜ彼らはそんなに慌てるのか?それは騎士団と言う場所の特異性に起因する。


騎士団は魔物の対処はもちろん犯罪者の取り締まりも行っている。その中で特に赤落ちに対しては特化していると言っても過言ではない。赤落ちを看破するスキルに街中で赤落ちを処断できる権限。さらには赤落ち相手にステータスが上昇するという話もある。


そして、捕まった赤落ち達は騎士団の牢屋に入れられる。そこには神から授けられた特殊な神器が在る。その効果は“赤落ちのリスポーン地点の固定”と“キャラクリの禁止”。


赤落ちがその神器の範囲内に入るとリスポーン地点が牢屋に固定される。そうなればどのような魔道具を使おうと他の場所でリスポーンする事は出来ない。これは遊び半分でその神器の範囲に入った盗賊の赤落ちが身を挺して調べた情報である。


凶悪なのはキャラクリ禁止の方。捕まればキャラクターを消して作り直せば問題無いと思う赤落ちは多い。だがこの神器の範囲に入ると刑期を終えるまでキャラクターの削除及び再作成が出来ないのだ。


もちろん不満を持つ赤落ちは運営に問い合わせた。返ってきた答えはただ一言。「仕様です。」


そんな言葉で納得しない連中は問い合わせ攻撃を続けた。そして帰って来たのは「現実でも犯罪者は刑期を終えねば解放されません。同じことです。」の言葉。


それでも、アウトローを選んだのは自分達なのだ。だがその危険が間近に迫っていると聞き、赤落ち達は狼狽しどうにか自分だけでも助かろうと逃走を図っていた。


「俺が出る。副長は仲間を集めて隙を見て逃げろ。なぁに心配するな、自決すりゃリスポーン地点に行けるだろ。」

「リーダー。長台詞喋れたんですね。」

「さっさと行け。」


目の前の脅威をどうにかすれば逃げられる。口の中に仕込んでいる毒を飲めばアイテムは失うが捕まる事は無いだろう。


リーダーは覚悟を持って斧を両手に持つ。そして目の前の老人に目を向け、斬りかかった。


「ほっほっほ、若いのはそれくらい元気がないとのぉ~。しかしやって良い事と悪い事が在る。ちとお仕置きじゃな。」

「うるさいっ!!好き勝手して何が悪い!!」


老人の頭に両手の斧を振り下ろすリーダー。しかしその攻撃は地面を叩き土を巻き上げた。


「そうじゃのう。まずは人様に迷惑を掛けてはいかんの。お主の力であれば魔物を屠れば英雄にもなれただろうからのう。それにこんな物を使うのもいかん。戦人なら己の力だけで立ち向かわんとな。」


老人はいつの間にか斧の刃の上に立っていた。そしてその手には口の中に仕込んでいた毒薬が握られている。


「っ!?このっ!!」

「ほっほっほ、甘い甘い。」


もう逃げられない。覚悟を決めたリーダーは老人をそのまま切り裂こうと斧を振り上げるも老人はすでにその場におらず、リーダーの後ろに立っていた。


「ちょこまかとっ!大人しく切られろ爺!!」

「そうはいかんのう。これも村の為じゃ。ほれそこ、脇が甘いぞい。」

「ぐぅっ!」


老人の持つ鍬の柄で脇腹を突かれる。それだけでHPがごっそりと減った。


「ふむ、もう少し手加減が必要じゃのう。ほれ、呆けておらんで掛かって来んか。」

「ちっ畜生!!発動「身体強化」!!」


リーダーは己の体を強くするスキルを発動し、老人に襲い掛かる。


「炎斧!!「火炎切り」!!」

「おう、良く鍛えておる。しかしまだまだ技に遊ばれておるのう。ほれ足元がお留守じゃよ。」

「ぐぬっ!!」


自身を強化し、攻撃スキルを使ったにもかかわらず老人にはかすりもしなかった。それ所か足に攻撃を受け無様に転んでしまう。何度も立ち上がり老人に立ち向かうリーダー。だがしかし悉く交わされ、そして反撃を受ける。ダメージは無い、しかし精神的苦痛にとうとう倒れ伏して動けなくなってしまった。


「ほれ、立たんか。出なければもう仕舞にするぞ?」

「・・・か。」

「なんじゃ?聞こえんぞ?」

「お前もいじめるのか!!」


転んだまま、涙を流してそう叫ぶリーダー。それは、リーダーの中身が絞り出した本気の叫びだった。老人はその叫びに何かを感じ取る、しかしまずは反省をと口を開いた。


「何を言うかと思えば。自業自得じゃろうが。先に攻撃したのはそちら。弱者をいたぶったのもそちら。やり返され、駄々をこねて叫ぶ等思いの他子供だったのじゃなぁ。」

「攻撃して何が悪い!!この世界はゲームだ!!好き勝手していいんだ!!力ある奴が自由に動いて良いんだ!!何したっていいんだ!!」

「一部聞こえなんだが・・・。その理屈ならば力持つわしがお主らを自由にしても問題あるまい?そもそも、力ある者が世界を自由に等すればあっという間に人は滅んでしまうわい。」

「ぐぬぅっ!?」


老人は今だ泣き叫ぶリーダーの頭上から顔を覗き込み、見透かすような目を向ける。老人の視線にさらされたリーダーは、まともに老人の顔を見る事が出来なかった。そんなリーダーの瞳の中に反省の色が見えた老人は優し気な笑顔で語り掛ける。


「それとの、お主に必要なのは立ち向かう勇気じゃ。いじめ等この世界でもあるぞ?避難しようとしても物資が無いと突っぱねられたりのう。しかしわしらは泣き寝入りはせん。戦うんじゃ。立ち向かうんじゃ。でなければ生き残れん。相手の言い分を認めた事にもなる。負けじゃよ負け。」

「うっぐ、ひぐぅ」

「お主は負けたままでいいのかの?悔しくはないのかの?」

「・・・・ぐやじい・・・。」

「ならば一発やり返せばよかろう。なぁに相手が先に手を出して来たんじゃ。やり返して何が悪い?ただし、やるならば徹底的にのう。相手が反撃しようと思わないくらい徹底的にやるのじゃ。中途半端はいかんぞ?もし今すぐ出来ぬ事なら力をまず蓄える事じゃ。おっとそろそろ時間じゃ。」


老人がアジトの出口の方に視線を向ける。そこから怒号と戦闘音、そして悲鳴が聞こえてきた。


「爺さん、終わりましたか?」

「婆さんや。こっちは終わったぞい。そっちはどうじゃ?」

「えぇ、誰一人逃がしていませんよ。」


いつの間にか居なくなっていた老婆がその場にいた。そして老婆の言葉に自分の行いは無意味だったと悟るリーダー。そんなリーダーに向けて老人は笑顔を浮かべたまま語り掛ける。


「刑期が終って行くところが無ければ家に来るとええ。強くなりたいなら鍛えてやる。そういえば旅人はここで体を鍛えても意味ないんじゃったか?」

「精神修練ならば大丈夫では無いですか?」

「ふむ、そうじゃの。心をまず鍛えねばの。そのつもりが在るならルド村を訪ねなさい。わしらは待っておるからの。」


「やり返せばいい。」そんな言葉を掛けられたのは初めてだった。リアルでも馬鹿にされ、陰口を叩かれ、SNSにはいつも誹謗中傷が書かれる。持ち物は無くなり教室で居場所は無かった。


親にも相談した、しかし親からは耐えろとしか言われなかった。反応するから悪いのだと、無視しろと、そして問題を起こすなと。言われた通りにした。するといじめは激化した。何をしても反応しない。そんな自分をそいつらはさらに玩具にし始めた。そんな現実が嫌で不登校になり、ゲームの世界に逃げた。


そして暴れた、鬱憤を晴らすように。自分はこんな物じゃないと、本当の自分はここ(ゲームの中)に居るんだと示すように。


でも虚しいだけだった。現実の自分は変わっていない。ゲームから戻ればいつもの虚無な自分が居るだけ。


でもこの人に教えを乞えば変われるだろうか?親にも見放された自分が本当の強さを身に着けられるだろうか?


「いつか・・・必ず行きます・・・。姿は変わってるかもだけど。」

「ん?おぉ、いつでもくるとええ。婆さんと待っとるよ。」

「そう言えばあなたのお名前は?」

「リーダーです。」

「なんとそのままの名前じゃったか!?これは驚きじゃ!!」

「ふふふ、次に会う時は本当のあなたで来てくださいね。」

「・・・・はい。」


変わりたい。そしてその機会をくれた。だったらいつか必ず会いに行こう。リーダーの心にはいつの間にか、今まで失っていた小さな灯が灯っていた。それは本当に小さなしかししっかりとした温かい火だった。


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

This work will be sent to you by kotosuke5, who is Japanese. Unauthorized reproduction prohibited 


この話は結構私の持論が入ってます。どうしてこの話を書いたのかをここで書いたら長くなるので近況ノートにでも思いを綴っておきますね。








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