半巨人世界に立つ

第1話

「お兄ちゃんはやくはやくー!!」

「待てって水穂、焦ったってまだ届いてないぞ!!」


真夏の日差しの中を仲の良さそうな兄妹が駆け抜けていく。


「そっか、今日から夏休みか。」


元気な子供達の声を聴いて俺はそう独り言を呟きながら。部屋で端末を使ってニュースを見ていた。


期待の完全没入型MMORPG『Another Life Online』がセカンドライフ社より本日発売!!

世界待望のフルダイブを可能としたVRMMO!!そよぐ風、香る草花、冷たい水。現実と見紛うほどの完成度を持った剣と魔法のファンタジー世界で『もう一つの人生』を自由に冒険しよう!!

定価 10万円 ※本体とゲーム機セットの料金となっております。大変高額な為、未成年の購入の際は保護者の了承が必要となります。


端末を読みながらも俺の顔は笑顔が止まらない。なぜかって?この『Another Life Online』が今日届くからだよ!!


恐らく先ほどの兄妹も購入出来たのだろう。時刻は時間指定で最も早く荷物が届く午前9時!!用事があって出かけたのであればそりゃ急いで帰るに決まっている。


このゲームはベータテストの時から世界中で注目されていたタイトルだ。日本の九州にあるゲーム会社が開発を手掛け、なんとクローズドベータテストだというのに生配信の許可も出されたという運営の太っ腹な対応も話題になった。


抽選に当たった1000名のベータテスターがこぞって配信を行い、このゲームの完成度と貴重な体験を多くの人々に発信した。高度なAIを使った人間と変わらないNPC、そして現実と見紛う程美しい世界。躍動感あふれるモンスターの襲撃!!


その配信を見た人々は興奮と感動で大騒ぎ!!さらには正式版の販売台数は抽選式で初回1000万台限定と来たもんだ。販売台数の少なさに嘆くサイト民を置き去りに抽選登録を行ったのは俺だけじゃないはずだ!


動作テストも兼ねてまずは日本から始動するという運営の発表を受けて海外のユーザーが何とか購入しようと裏工作まがいの事までやったという話は有名で。さらには転売で1000万の値段が付いたなんて話もある。


そんな数多くのユーザーが夢見たゲームに運良く当選!!しかもなんと1000万人目で当たるという奇跡!!何故わかるかって?当選通知に何人目で当たったか書いてあった!


そんな俺は朝から楽しみ過ぎて落ち着かず、ずっとソワソワして部屋の中をうろうろしてる不審者と化しているのだった。


ピンポーン!!


きたっ!! ドタドタドタッ!!


「相良急便でーす!!配達に伺いましたー!!」

「はーい!」


荷物を受け取り部屋に戻る。早速箱を開けるとそこには頭にかぶるヘルメットの様な物と首につける端末、あとは手首に嵌める腕輪が入っていた。


「えーっと説明書はっと・・・。あったあった。」


『この度は弊社の『Another Life Online』をご購入いただきありがとうございます!!』


この様な文面から始まる説明書を重要そうなところだけを確認し、他の場所は読み飛ばす。説明書にはこのゲームの注意書きが書かれていた。


まず注意点として、健康被害を受けないよう1回のログイン時間は4時。つまりゲーム内で24時間と決まっている。


4時間を超えてのログインは出来ない。ログアウトすれば最低でも1時間はログイン不可。


意識をゲームの中に全て移す為、現実で異常が起こっても咄嗟に察知できない事が考えられる。その為、付属の機器を使って異常を感知している。チョーカーと腕輪は体調を、ヘルメットはゲームの起動と外部からの異常反応を検知しているそうだ。


体調に関しては異常が検知されるとゲーム内にレッドアラートが鳴る。レッドアラートが鳴ったプレイヤーはゲーム内で6分後に強制ログアウトとなる。


ゲームの中の世界は現実の6倍もの時間が流れている。つまりこっちでの1日は向こうでの6日になる。


端末は起動時に自己判断で正常に起動できるか、起動してから人体に支障が無いかどうかを調べる機能が付いている。その為起動には5分程時間が掛かる仕様となっている。これはどの端末も速くなったりはしない。人命に直結する為必ず待つ事!!だって。


異常があれば端末がお知らせを出すのでカスタマーセンターに連絡する事。


ヘルメットには現実時間とゲーム内時間をバイザーの部分に表示する機能がある。


ヘルメットとチョーカー、腕輪はセットとして扱いどれか一つが欠ければゲームは起動できない。紛失した場合はサポートセンターに連絡し指示を仰ぐこと。


ヘルメットに自分の持っている携帯端末を登録する事が可能。メールをゲーム内で受け取る事が出来る。


ゲーム内での出来事は全て自己責任。悪質な行為以外であれば運営が関与する事は無い。


以上の事に十分注意して存分に『Another Life Online』を楽しんでください!!

※ゲームについての詳しい説明はゲーム内ヘルプをご参照下さい。


と最後に締めくくられていた。俺は早速ゲームを起動する為に説明書に書かれていた事を実行する。


「戸締り良し!!火の元よし!!換気良し!!取り込み中の表札良し!!」


気ままなマンションの一人暮らしな為、外で何かあった時にゲームをしていると分からない可能性がある。仕事の関係上ご近所さんとは仲良くしていて、『Another Life Online』を遊ぶと話をしていたのでご近所さんが表札を見れば便宜を図ってくれるだろう。


それに端末に現在住んでいるマンションで異常があれば知らせるアプリが入っている。玄関やベランダに不審者が居た場合や、訪問客が来た場合等設定で色々教えてくれる。俺は不審者通知とガス漏れや水漏れ通知をONにしているから問題ない!!


まぁその機能を十全に使う為にこの機器EED、あっEEDってのは電子世界体験機器『Electronic world Experience Device』の頭文字を取っているらしい。そのEEDに端末情報を登録する。


リアルでの準備は万端!!自由業だから時間は自由に使えるし午前中に仕事して午後から遊んでも仕事は何とかなるはずっ!!遅れたらごめん!!それにもう待ちきれないし早速ゲームで遊びますか!!


俺はヘッドセットを被り、チョーカーと腕輪をしてから頭の横にある起動ボタンを押した。


ウィーン、チキチキチキッ。


起動音を鳴らしながら何やらヘルメットのバイザー部分にプログラムが走り、EEDはチョーカーと腕輪とのリンクを確認していく。


人の形の輪郭が表示され、脈拍や脳波を計測している様だ。凄いSF感があるなぁ。


3分くらいだろうか?俺のパーソナルデータが取れたと表示がされた。今後は今の状態を基本として体の状態を確認していくみたいだ。初回ログインだから心臓バクバク言っているが大丈夫かね?


あっ、何回かログインすると修正されて行くのね、なら安心。


端末の確認もここでやるのか。えーっとメールの設定はこのURLを・・・これで確認良しっと。お知らせの受信設定は受信にしてメール通知はアイコンでお知らせっと、設定完了!!


これで初期設定はOK?あっここで当選者に配布された個人コードを入れるのか。この個人コード、当選者にしか配布されないものでもしもEEDだけを持っていたとしてもこれが無ければゲームが出来ない仕様になっている。


つまり転売するならこの個人コードも一緒に売る事になり、登録されている住所と違う場所で起動した場合は違反となり個人コードは無効となってEEDは強制終了するらしい。コードを入力したら住所変更の仕方と一緒に注意として出て来た。


転売ヤーさん乙!!まぁ個人コードが添付されたメールに注意書きとして確実に登録された住所で起動する事って書かれているから普通はしないけどね。


住所偽造等も出来ない様に専門のスタッフがIPアドレスなんかを確認しているそうな。何者だセカンドライフ社?


まぁそんな事は良い。俺の目の前には『初期設定終了。ゲームを起動しますか?』と輝く文字が!!


えぇえぇ起動しますとも!!意気揚々とYESと念じた俺の意識はあっという間に暗闇に飲み込まれて行った。


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

This work will be sent to you by kotosuke5, who is Japanese. Unauthorized reproduction prohibited 

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