第4話「恋愛感情ゼロ」




レヴィン様が凄むと、ラウ侯爵は顔を真っ白にしブルブルと震えだした。


しかし、当のカスパー様はふてくされた顔をしていた。


そしてカスパー様は、

「ちょっと待ってください!

アリスの気持ちはどうなるんですか?

アリスは俺のことが好きなのに!

王家の力で無理やり王太子の婚約者にするなんて横暴だ!!」

最悪のタイミングで、最低なことを口にしました。


誰が? いつ? あなたのことを好きになりましたか?


誰かタバスコと濃いめのお酢と塩を持ってきてくださらないかしら?


先程ラウ侯爵に殴られたため、カスパー様の左頬には傷が出来ています。


カスパー様の傷口にタバスコとお酢と塩を塗り込んで、傷口の消毒をしてあげましょう。


「ラウ侯爵、ご子息は命が惜しくないようだな」


ラウ侯爵を睨む、レヴィン様の体からは冷気が溢れ出していた。


レヴィン様が腰の剣に手をかける。


「ど、どうか命ばかりはお助けを……!」


ラウ侯爵がその場に土下座して、カスパー様の命乞いをした。


「父上!

なぜ謝るのですか?

俺は間違ったことを言ってません!」


ふてぶてしく言い放つカスパー様。


親の心子知らずとはよく言ったものですね。


カスパー様は死に急ぎたいようです。


ラウ侯爵の土下座は無駄になりますが、カスパー様にはここで死んでもらった方がいいかもしれません。


「馬鹿者!

いいからお前も頭を下げろ!!」


ラウ侯爵がカスパー様の頭を殴り、無理やり土下座させた。


「どうか、この通りです!

息子のことはあとでちゃんと叱っておきます!

息子のことはこれからしっかりしつけます!

此度ばかりは大目に見てはいただけないでしょうか!」


「ラウ侯爵、それは無理な相談だ。

アリスとカスパーの婚約解消のときも貴公はそう言った。

だがそなたはカスパーをしつけるどころか、事情すら満足に説明しなかった。

そして今日カスパーは、私の留守中に当家を訪れ、図々しくもアリスに復縁を迫り、王太子殿下を罵倒した。

ラウ侯爵、カスパーの失態はそなたが頭を下げたところでどうにもならない。

カスパーが犯したのは王族への不敬だ。

お咎めなしというわけにはいくまい。

重い罰を覚悟しなさい」


お父様がラウ侯爵に冷たい視線を送り、冷淡に言い切った。


「そんな……」


お父様に厳しい口調で言われ、ラウ侯爵はがっくりとうなだれた。


「父上、俺達はどうなるんですか?

俺はアリスを助けに来ただけなのに……!」


「うるさい!

お前は黙っていろ!」


ラウ侯爵がカスパー様の顔を殴る。


「ラウ侯爵令息が犯したのは、王族への不敬罪だ。

僕への謝罪もないし、ラウ侯爵令息には反省の色が見られない。

ラウ侯爵令息への厳罰は避けられない。

当然、ラウ侯爵令息の親であるラウ侯爵と、実家であるラウ侯爵家にも責任を取ってもらうよ。

ラウ侯爵家は二階級降格、ラウ侯爵は当主の座を親戚に譲ること、ラウ侯爵令息は侯爵家から除籍し強制労働所行きかな」


レヴィン様が冷たい口調で説明した。


「そんな……!

俺は強制労働所なんか行きたくない!

助けてくれアリス!

俺とお前の仲だろ!」


カスパー様が私に助けを求めてきた。


先ほどからカスパー様に「俺とお前の仲」と言われるたびに、背筋がゾワリとしている。


本当に気持ち悪い。


カスパー様、あなたと私の縁はとっくに切れています。


「アリス、このままでは君もモヤモヤするだろう。

ラウ侯爵令息に、はっきりと君の気持ちを伝えて上げたら?」


レヴィン様が私の腰に手を添える。


「はっきりと伝えてやらないと、身の程知らずの愚か者には伝わらないよ」


レヴィン様が私の耳元で囁く。


低音の素敵なお声で囁かれ、私の心臓がドキドキと音を立てる。


「分かりました」


そもそも婚約「破棄」ではなく「解消」にしたのが、間違いでした。


カスパー様ををつけ上がらせることになりました。


ここはキッパリと告げさせていただきます。


私はカスパー様の目をキッと見据える。


「ラウ侯爵令息、私とあなたの婚約は家同士の結びつき、政略的なものでした。

私のあなたへの恋愛感情はゼロです。

ラウ侯爵令息を好きだったことなんて、一度もありませんわ」


私はカスパー様の目を見てはっきりと伝えた。


私の言葉を聞いたカスパー様は、鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしていました。


「嘘だろ……アリス?」


「何度も言いますが、私とラウ侯爵令息の婚約はすでに解消されています。

気持ち悪いので二度と私を名前で呼ばないでください」


私がキッパリと言い切ると、カスパー様はがっくりと肩を落とした。


名前を呼ぶなって、応接室に入ったときに言いましたよね?


カスパー様に名前を呼ばれるたびに、鳥肌が立っています。


二度と私のことを名前で呼ばないでください。


「私はレヴィン様を愛しております。

レヴィン様と婚約出来て幸せですわ」


「僕も幼い頃からずっと好きだったアリスと婚約出来て嬉しいよ」


レヴィン様が優しい笑顔を浮かべ、私の耳元で愛をささやく。


レヴィン様が好きすぎて、とろけてしまいそうですわ。


「アリスは俺と婚約していたときから、王太子殿下と通じていたのか!?

不貞だ! 

浮気だ!

慰謝料を払え!!」


カスパー様が吠える。


キャンキャンうるさいですね。


誰か首輪とムチを持ってきてくれないかしら?


カスパー様の横っ面をムチで打ってやりたい気分ですわ。




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