楽しい人ではなく寂しい人

加藤巳紀

第1話 帰り道

「俺さ、陰キャになるわ」

「は?何言ってんのお前」

学校からの帰り道、西日が照らす坂道を登っている最中に、突然訳の分からないことを言い出した、同じ中学出身であり親友でもある三浦大貴みうらだいきの言葉を軽く受け流した僕は、大貴の反応をじっと待つ。

「アキには分からないんだよ、今まで付き合ったことがないから」

本名、林明人はやしあきとである僕は、幼稚園の頃から愛称は「アキ」で通っている。家族をはじめ、僕の周りの人はみんな僕のことを「アキ」あるいは「アキくん」と呼んでくる。ただ一人を除いては。

「お前だって最近初彼女ができたばっかだろ」

そう、大貴には最近付き合い始めた彼女がいる。高校に入学してから数ヶ月後、同じクラスで席が隣だったせいか、前川望まえかわのぞみさんと仲良くなり付き合い始めたそうだ。

「まぁね、だけどさ望が最近こんなことを言ってきたんだよ『女の子と絡んでる大貴の姿ってあんまり見たくないんだよね』って」

「それで陰キャになろうってわけか?なんかダッセェなそれ」

彼氏彼女という関係、付き合うっていう関係がまだよく分からなかった僕は大貴の言っていることが腑に落ちなかった。

「アキも恋をしたらわかるよ、『彼女が望むならやれることはやろう!』っていう感覚、望だけにね」

「つまんな(笑)」

「てか最近どーなんだよ、凛々ちゃんとは?連絡ちゃんと取ってんのか?」

「いやぁ、別にだな。そもそも凛々はうちの近所に住んでるから連絡取る必要なんてないわ」

中学時代、僕と大貴、それに僕の家の近所に住む幼馴染の松木凛々まつきりりの3人はよくこの坂道を通って一緒に帰っていた。

「俺たちまだ高1になって半年なのにさ、なんだか中学時代の頃が懐かしいよな。凛々ちゃん、元気してるかなぁ」

「まぁ凛々は凛々なりに頑張ってるだろ」

「なんだか冷たい言い方する奴やなぁ、久々に会ってやればいいのに、家近いんだから」

「いや、実際顔はしょっちゅう見てるし、平気だろ」

「アキは女心が分かってない、そうじゃなくて時間作ってあってあげろってことだよ」

『女心が分かってない』なんて自分でも薄々感じていたが、面と向かって言われると流石に心に響く。

正直、時間を作って会うのもいいと思っている。だけどそれができない現状なのだ。あの事があって以来、凛々は本当に大変なのだ。

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