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「あたしと同じ名前なんだ、その子」

「本人はそう言ったんだけどね」

 久しぶりに部屋にやってきたミナヅキは、意味ありげに僕を見て少しだけ微笑んだ。

「そうじゃないの」

「そう違ったんだよ。この辺の資産家の娘で、葵っていう名前らしい」

「葵ちゃんか。いい名前だね」

「あたしの妹もね、本当はカンナヅキになるはずだったの」

 ミナヅキは僕のとなりにすわりこんで話しはじめる。何となく懐かしい感じがした。はっきりとしたことは覚えてないけれど、二人でこうして話したことがあったような。でも、ミナヅキがこんなに近くに来たことってあったかな。

 僕はミナヅキの匂いをはじめて嗅いだような気がした。ミナヅキがニコッと笑ってぼくのほうを見る。「思い出した」とでも言うように。

「あたしと妹は生まれてすぐ施設に預けられたの。二人ともお守りを下げてたんだって。その中に名前の入った紙が入っていたらしいの。

 あたしはミナヅキ。妹はカンナヅキ。あたしをもらってくれた親はその名前をそのままつけてくれたんだけど、妹は別の名前をつけられたみたい。もちろんずいぶん後になってから聞いた話だけど」

「調べたの」

「まあね、あたしの親はちゃんと話してくれたから。施設にも行ったの。記憶はないんだけどね、なんか感じたんだ。二人でかごの中にいたときのことを」

「産んだ人のことはわかったの」

「それは施設の人もわからないって。あたしも別に知らなくていいし」

「親のことはね」

「でも妹は気になるんだ。どうしてるのかな」

「もういいおばさんだよね。同い年なんでしょ」

「そうだね」

 僕はあの頃のままのミナヅキを見ている。するとミナヅキが僕の手を握った。僕が考えていたことがわかったのかな。ラジオからはフォークソングが流れていた。

《しょうがない。雨の日はしょうがない》

「雨降ってるのかな」

「いい天気のはずだよ」

「月が出ている」

「空から雨が降れば」

「なに」小さくつぶやいた僕の声にミナヅキが反応した。

「たしかそんなタイトルだった。この歌」

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