ありふれた妄想のダイアリー
胡蝶花流 道反
第1話
毎晩、夢に兄が出る。
いや、どちらかと言えば兄の夢を見る、という感じか。僕の夢なのに、
初めて夢の中に兄が出てきた時、兄は凄く戸惑っていたように見えた。周りの風景は異国情緒に溢れ、そこかしこにいる人々は多種多彩だ。物珍しいのか、はたまた得体の知れない危機感で警戒しているのか、キョロキョロと周りを見回している。
普通の人の倍以上はある筋骨隆々の半獣人にぶつかっては土下座で謝り、水色ロングヘアーのエルフっぽい半裸の女性に声を掛けられては顔を真っ赤にして後ずさる。危なっかしいな、と思いつつ、徐々にこの世界に馴染んでいく兄を微笑ましく眺めていた。
一週間もすると、すっかり兄らしさを取り戻していた。元々兄は高スペックなイケメンなので、どこに行っても人気者になった。謎ファンタジー空間の僕の夢の中でも、それは変わらない。最初は見るだけで怯えていたこの世界の住人とも仲良くなった。日を追うごとに仲間は増えていき、とても楽しそうだ。
僕の夢のはずが、何だか兄の夢を覗いているような気分になる。だが、僕はとても嬉しかった。何故なら……兄は亡くなっているから……初めて夢に出た、3日前に。
昨夜夢に出た兄も、相変わらず快活で新天地をエンジョイしているみたいだった。見るたびに取り巻きの女の子が増えているのは、気のせいではないだろう。なにしろ、生前から兄は女性にモテていたからだ。
なんだか兄が死んだ事実が嘘のようだ。
昨夜見た夢では冒険に出ていた。移動中、兄の左側を誰にするかで女の子達が揉めていた。力で決着をつける事となり、豹の獣人っぽい娘が権利を手に入れた。2番手の小柄で白い羽の生えた天使のような少女も、納得した様子で右側に付いている。
他の子たちは有象無象の如く、後ろからぞろぞろと付いて行く。途中、小競り合いがあったり、みんなでお弁当を食べたりと呑気なものだ。
女の子達とイチャイチャしていただけで、帰ってきた。モンスターの討伐とか、素材の採取とか、何か目的があったのではなかったのか?まるでピクニックだな。
いつもは兄の様子を傍観して夢は終わるのだが、今回は違った。なんと、兄が僕に語りかけたのだ。
「俺が死して尚、お前の夢に出演しているのは何故か。しかも毎晩毎晩、ストーリー仕立てで、内容が続き物で。それはだな……俺はお前にこの夢を小説に書いて欲しいからだ!」
兄は生前のままの話し方で、トンチキな事を語りはじめた。このような形で兄と再び話せるとは、やれやれだ。
「お前この夢を、毎日日記につけているんだろ?俺は知っているんだぜ。いや、いいんだ、それでいい。日記に書くぐらいなら、それを小説にしろってんだ。その小説、絶対当たる、絶対だ!俺からの啓示だ」
いやいや悪いが、こんなもの書いて小説として世に出しても、「○○の劣化版」とか言われるのがオチだよ、兄さん…
「大丈夫だ、やれ!!」
兄に言われた通りに、今まで書いてきた日記も含め、夢の内容を小説として発表した。なんとそれが、あれよあれよと有名になり、出版され、アニメ化され、僕は人気作家の一員となったのだった。
*****
「…って、こんな話、どうよ?」
「却下!」
「なんでだよ、面白いだろ?ファンタジーだと思って読んでいたら、バリバリの現代を舞台にしたサクセスストーリーとか、斬新じゃね?」
などと、兄が僕の仕事部屋に来て、喚いている。ああ、兄は勿論生きている。
僕は趣味で小説投稿をしているのだが、ちょっと内容がマンネリ化してきたので、他の人の意見を取り入れてみようと試みたのだが、結果こんな提案をされてしまった。今回「日記」をお題にすることも踏まえて、のアドバイスを求めたのだが。
「あのさぁ兄さん。その手のパターンは色んな所で見るし、僕も既に似たような
なんだよー、せっかく考えてやったのによー、等とまだ何かぶつぶつと言っているが、無視しよう。大体なんだよ、高スペックイケメンの兄って。確かに僕に比べたらイケメンの部類になるのだろうが、中身が残念過ぎるんだよな。
「なあなあ、それならコレどうよ。日記に書いたことが実際になる…」
「それ、書いちゃダメなやつー!」
ったく、
「ちょっと、部屋見せて!」
「え!?」
戸惑う兄を置き去りに兄の部屋に入り、目当ての物を探す。
「やっぱり、あった…」
日記帳だ。自分で日記を書く習慣でもないと、なかなかその発想は出ないものだ。どれどれ、どんな面白い事を書いてあるのやら。
〇月×日
1億円手に入ったら、どう使うかを考えてみる
俺専用の部屋を作る
マンガを好きなだけ買う
ラノベを好きなだけ買う
アニメの円盤を好きなだけ買う
ゲームを好きなだけ買う
……そこで日記は終わっていた。
うん、何の参考にもならないね、こりゃ。
ありふれた妄想のダイアリー 胡蝶花流 道反 @shaga-dh
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