とあるヒーローの裏日記

ムネミツ

  とあるヒーローの裏日記

 三月二十七日


 公式サイトのブログには書けない事を、今日も手書きの日記に付ける。

 この日記も大分記録が溜まって来た、いずれしかるべき記者を見つけて

出版してもらおうと思う。


 今日は午前中までは平和だった、今日は秘密結社アストレアとの戦いはないと思いたかったが甘かった。

 普段の姿で食事配達のバイトを終えて家に直帰している途中、道路沿いの川原に出現したアストレアの怪人と戦闘員を発見して戦闘になった。

 「イ~ッヒッヒ♪ 花見客共、花粉を喰らえ~♪」

 杉の木モチーフらしい怪人が花見客に花粉をばら撒く。

 「ぎゃ~~っ! 目がかゆい~!」

 「くしゅん! くしゃみが止まらない~!」

 黄色い粉まみれにされた花見客が苦しんでいた、許せなかった。

 幸いにも花見客達はこちらを見ていない、変身の時は今だった。

 俺は変身ベルトを操作して素早く変身し、虎モチーフの黄色いマッシヴなヒーロースーツを纏ってエトタイガーとなって怪人達へ襲い掛かった。

 「そこまでだ、アストレア!」

 「貴様はエトタイガー! お前も花粉症にしてやる~!」

 杉怪人がまずは戦闘員をこちらにけしかける。

 「舐めるな、とうっ!」

 俺は花見客に被害が及ばないように、格闘して戦闘員達を撃破して行く。

 「お前も杉花粉を喰らえ~!」

 杉怪人が俺に黄色い粉を吹き付けて来る。

 「ぐは! 視界が塞がれる!」

 マスクの複眼が塞がれて視界を奪われると、俺の腹に強烈な衝撃が襲う!

 スーツのボディアーマーで耐えるも、これはきつい。

 俺はセンサーで水音を拾って川へと飛び込み、水中で花粉を落とす。

 それから雷のマークのついた小さいボールを変身ベルトにセット。

 「とうっ!」

 水中からジャンプで飛び出すと、俺は空中で必殺技の構えを取った。

 「喰らえ、サンダータイガーキック!」

 足から雷のエネルギーを放ちながら必殺キックを杉怪人に叩き込む。

 「ぎゃ~~~っ!」

 俺の技を受けた怪人は爆散した。

 「ふう、怪人は倒せたか」

 敵は倒したが、人々は花粉まみれのままだったので救急車を呼んでから立ち去った。

 秘密結社アストレアは、毎回性質の悪い怪人を生み出しては街に放ち悪事を働く迷惑極まりない連中だった。

 おかげでオフを楽しもうと思っていたのが台無しになった、許せん。

 

 ヒーローたる者、悪事は放置できんが一人の人間としては休みを楽しみたいと思う気持ちもある。

 だが、何の因果か奴らは俺や周囲の平和を壊しに現れるのだ。

 人々の平和も自分の平和も守らねばならないのは、ハードワークだぜ。

 今日使て見た必殺技は互助組織から送られて来たガジェットをぶっつけ本番で使って出したけど、これが決まらなかったら危なかった。

 今度スーツの調整を頼む時にガジェットも使いやすくしてもらおう。


 三月二十八日


 今日の戦いは、市街地。

 今回は、怪人だけでなく女幹部もいた。

 「エトタイガー! 今日こそ我が怪人で貴様を倒す、行けグレイジャッカル!」

 ボンテージの上に白衣を着て美しい顔にモノクルを掛けた美女。

 その名もドクター・マーキュリーが、ジャッカルをモチーフとした灰色の怪人を連れて現れた。

 「上等だ、来い!」

 俺が構えると、グレイジャッカルは両手から鋭い爪を生やし風を纏った速度で襲い掛かって来た。

 相手の連続攻撃は素早く、俺はスーツの装甲で耐える。

 「はっはっは♪ グレイジャッカルのスピードに手も足も出まい♪」

 ドクター・マーキュリーが笑う、調子に乗っていられるのも今の内だ。

 俺は耐えながらグレイジャッカルの動きを読み、逆転のタイミングを計っていた。

 奴が、止めとばかりに空中から飛びかかってきた瞬間に俺は動いた。

 「今だ、ファングアッパー!」

 俺は牙を突き上げるように両の拳でのアッパーカットを怪人に叩き込み、相手を吹き飛ばす。

 「馬鹿な! あのスピードに対応しただと?」

 驚くドクター・マーキュリーは無視し、俺は怪人に追撃を行う。

 「喰らえ、タイガーエルボー!」

 俺は跳躍し、こちらの攻撃で動きが止まった怪人の頭部に肘を打ち下ろした。

 俺の攻撃を受けた怪人は爆散した。

 「くうっ! またしても私の怪人が、おぼえてなさいエトタイガーッ!」

 ドクター・マーキュリーは捨て台詞を吐くと瞬間移動で姿を消して逃げた。

 「……くそ、逃げたか! しまった、急がないと特売品が売りきれてしまう!」

 俺は身を隠して変身を解除すると、スーパーへ急いだ。

 悪の怪人は倒せたが、セールには間に合わず特売品の卵や肉は買えなかった。

 ドクター・マーキュリー、絶対に許さん!

 悪の組織も盆暮れ正月に土日祝日は休め、人が今日はバイトが休みだってのにこっち来んな!

 こんな事は、互助組織の公式ブログには絶対に書けないので手書きの日記に綴る事にする。

 他のヒーロー仲間達は、戦いと自分の日常の折り合いをどうつけて生きているのだろうか?

 今度、定例会議があった時に聞いてみようと思う。

 ヒーローとしての悪の組織との戦いも、人間としての生活の戦いも負けてたまるかと俺は戦い続ける。

 何事も諦めない事が、俺のヒーロー道だから!

 自分で良い事を言ったと思いつつ、俺は日記を書き終えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

とあるヒーローの裏日記 ムネミツ @yukinosita

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ