雪の月 21日



 本当の地獄は目的地に着いてからだった。私は初日にしてそれを悟った。


 青の塔自体は、それはそれは美しかった。高い尖塔が上下にひっくり返って丸ごと地面に埋まっているというそれは確かに、内部へ入ってみると全てが上下逆さまだった。灯籠の位置は床スレスレだし、扉の取っ手もすごく上の方にある。


 その光景だけでも幻想的だが、「青の塔」の名に相応しく、この建物は全てが深い青色の岩石でできていた。薄暗いなかでは一見黒く見える壁や天井が、明かりを灯すと夕闇のような紺碧に染まる。僅かに含まれる金色の鉱物が星のようにキラキラと反射する。単に「青」というより、夜空の塔という印象だ。


 そして、ここが叡智の塔であるというのも本当だった。常人にとってはただの迷路だが、どういう仕掛けかこの塔は素質のあるものだけに書庫への道を開くらしい。師匠が一歩入るなり塔はするすると音もなく壁の石を動かして道を作り、私達を最奥へ招いたのだ。


 書庫の書物を全て読み尽くさないと出られないという説明には眉をひそめたが、それでも超古代文明の叡智の結晶には好奇心を揺さぶられた。


 問題は迷宮ではない。問題は、師匠の作る食事なのだ。


 思い出すだけで吐き気がするので、詳細は明日、食後を避けて書くことにする。





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