【2章連載中】もふもふ異世界で記憶喪失の私がアイドルになってしまったのですが!

@tomoe13

プロローグ

この世の終わりのような地響きで眠っていた少女の意識が覚醒する。


うすぼんやりした視界の中で少女は目を凝らすと、白色を中心とした色とりどりの光の粒が周りを取り囲んでいることに気がつく。

だんだんと目が慣れてくることで、光の粒が月光に照らされた瞳の反射であること、その瞳の持ち主が鋭い爪や牙を思うがまま振るう存在であること、先程の唸るような地響きは本物のおぞましい魔物の唸り声であると背を伝う冷や汗で理解する。


「なっ、なんで、こんな……」


少女は生物的な本能のままに逃げようとしたが、恐怖から腰を抜かしてしまい、逃げるどころか立ち上がることすらできない。

少女は逃げたいという最後の願いも叶わず、ここで惨たらしく食い殺されて死ぬ未来を直感し、せめてもの逃避として目を固く瞑る。








(………………あれ?いたくない?)


少女は痛みを感じないことを不思議に思い、恐る恐るゆっくりと目を開く。魔物たちは相変わらずこちらをぐるりと囲うように存在しており、これが夢などではなく現実であることを再確認した。しかし、同時に魔物たちの視線がこちらを向いていないことに気がついた。


「みえてない?」


とりあえず、襲われないことに少女は安心した。

だが魔物たちに囲まれていることは変わらず、いつ命綱であるモヤが消えてなくなるかわからない。

少女はこの状況を解決するために、何故ここに来たのか記憶を辿ることにした。



「なんで……」


しかし、少女は思い出すことができない。

それどころか、自分が何者にかすらわからなかったことに愕然とする。

村娘が持ちうる年相応の知識は確かにあるが、自身を構成する記憶が一切合切抜け落ちていたのだ。


少女は今の状況に恐怖を通り越して途方に暮れていた。

すると、どこからかふよふよと一つの小さな光が漂ってきた。

魔物の瞳の光とは違い、次第に光は強く暖かな色を帯びていく。そして、まるで触って欲しいと言っているように蹲っていた膝の上にちょこんと留まる。

少女は何か手ががりになるかもしれないと考え、意を決して顔を上げ光に触れる。


もちっとした手触りを感じた瞬間、少女の意識は刈り取られる。


--

「双子か……」

自分の声が聞こえるともに、対象的な色をもつ仔猫たちが映る。

ボロボロな仔猫たちをテキパキと応急手当している自分の姿をみて、少女はなんだか不思議な気分になった。


「あなたたち、こんなところでどうしたの?」

次におっとりした優しそうな声が聞こえると、湖の畔に世界が移動した。少女は不気味さと揺らぐ視界へ気持ち悪さを覚える。

話しかけてきた淡く光る大きな緑色の生物らしきもを観察していると、また視界が大きく揺らぎ始めた。



「ちょっとお手伝いしてくれる?」

また場面が変わった。

ここは木で出来た大きなログハウスだ。

先程の緑の生物らしきものの声ははっきりと聴こえるのだが、もう目も空けられないほど少女は疲労していた。

話の内容から私と後の誰かに、薬草を取ってくるように伝えているようだ。


--


少女の意識が覚醒する。


テレビをザッピングするように流れ込んできた情景が、自分が持つ過去の記憶であると疑うことなく少女の脳は認識した。自分の生い立ちを構成する要素を与えられたことへの安堵と同時にそれ以上の薄気味悪い嫌悪感を少女は感じた。

これが自分の記憶である確証はどこにもありはしないが、その記憶を自分の身体が本能が肯定していることと、その記憶らしきものに頼るしかない現状に、やるせない感情が少女の小さな身体に渦巻く。



だが生きるためだ



生きてこの場所から離れ、この記憶が正しいものか確信を得て欠けた記憶を取り戻す決意の現れから拳を握りしめようとするが、もちもちとした肌触りを手のひらから感じた。手のひらをみると、メンダコのような姿をした小さな生物が光を発しながらすよすよと眠っている。


少女は自然とさながら洞窟探索をするがごとくヘッドライトとして頭の上にちょこんとのせた。

すると、目を凝らさずとも周囲が見えやすくなった。今まで見えていなかったが、草むらに隠れるように2匹のこねこが身を寄せ合って震えているのを見つけた。

少女は最初の記憶に出てきたボロボロな双子の仔猫と同じであると気がつくよりも前に、自分の服を裂き白猫にある大きな傷口を塞いだ。


白猫はされるがままで荒い呼吸を繰り返している。黒猫は特に少女を威嚇することなく、不安そうな様子で手当のため地べたに座った少女の側に伏せる。


少女は手当した白猫を膝の上で抱きかかえたまま祈るように手を組む。


すると何故か次第に頭上の光が強まり、まるでスポットライトが当たったように視界が明るくなった。シキは視界を上に向けると、メンダコが光り輝いているのがわかった。

閃光のような輝きに照らされて、みるみるうちに仔猫たちの傷口を癒やす。どういう原理かわからないがメンダコの妖精に助けられたのは事実だ。少女はメンダコに感謝のもちもちをしていたさなか、




足音が聞こえる








大きな獣の足音だ






「にげないと……!」


メンダコの光につられたのか、魔物たちはモヤの仲に足を踏み入れているのだろうか。さらに、少女たちの身を隠す命綱のモヤが弱まっていることに気がつく。


絶体絶命のなか、少女は仔猫を守るように強く抱きかかえ足音に背を向けて逆方向に走りだそうとすると、少年のような叫び声が少女の鼓膜を揺らした。



「とまれ!助けに来たんだ!!!」






人間の声を持つ犬がいた

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