第32話 ユナとサナの学園生活Ⅱカイン魔法学校に講師として呼ばれる
カインはその後、校長室へ向かった。
扉をノックする。
「入れ。」
「ギルド職員のカインです。ギルドに依頼いただいた件で参りました。」
「よく来たな。掛けてくれ。」
お礼を言い、高級そうなソファーに座る。紅茶を出してくれた。
「さっそくで悪いんだが、ギルドに依頼させていただいたとおりでな。帝都の魔法学校は魔法を中心として、紳士淑女になるための嗜み、一般教養を教えておる。」
言わずもがな帝都魔法学校はエリート魔法学校だ。妹、サナも通っているし、ガリレア帝国の姫様、ユナさんも通っている。
「ええ。存じ上げております。」
「うむ。講師の一人が急に辞めてしまっての。急いで募集を掛けているのだが、色々と複雑な事情で新しい講師が決まるまで、時間がかかりそうでな。夏休みもすぐ来るし、その期間を除いて年内はお願いしたい。」
なるほど。伝統ある魔法学校の講師は位が高い仕事に分類される。
高い魔力と家柄が求められている仕事だ。魔法学校で働いているというだけで家に箔がつく。
当然、どの貴族も自分たちの家が推した人物を講師にしたい。そう言った理由で講師がなかなか決まらないのだろう。帝国貴族内の権力争いというやつだ。
「それで具体的には講師として、どれくらいの頻度で働くのでしょうか。」
「うむ。さすがはカイン殿。理解が早くて助かる。週に一回。二時間だ。Sクラスの実践魔術を担当してほしい。ワシが教えても良いのだが、未来有望な子どもには引退した爺では力足らずでな。それにガリレア王に相談したところ、派閥など関係なく真摯に対応してくれるとカイン殿を推薦されてな。」
Sクラスは特にエリートが集まるクラスだ。講師の中でも求められるレベルが高く、派閥争いの格好の的だ。
「なるほど。だから学校としてギルドに依頼したんですね。」
「そうだ。どの講師も受けたがらなくてな。求められる能力もそうだが、嫌がらせや嫉妬もすごい多くて病んでしまう講師も多くてな。」
なるほど。面倒なことは外部に依頼する形で解決するという算段か。
「分かりました。ガリレア王からの推薦とあれば無下に断ることは出来ません。ギルドマスターからは既に了承を得ておりますので、慎んでお受けいたします。」
「ありがとう。助かるよ。それにしても大きくなったな。カイン殿。」
校長が手を差し出す。
この手を差し出す姿…どこかで見たことがある。
思い出した。昔、帝国騎士団の将軍だったルノガ―さんだ。優しい微笑み。まさに紳士だ。幼い頃、父上に連れられて城に行った時、泣いていた僕に手を差し伸べてくれたことがあったな。
「思い出しました。ルノガ―将軍ですよね。今は校長をさているんですね。」
「自己紹介せずに悪かったの。いつカイン殿が思い出すのか楽しみに見ておった。今は帝都魔法学校の校長をしておるルノガ―だ。カイン殿。よろしく頼む。」
ホッホッホと笑うルノガ―さんのお茶目なところは皆から愛されている理由だろう。
手を握り返した。
「さっそくで悪いが、明日から講師をお願いしたい。」
「分かりました。ギルド職員としてしっかりと対応させていただきます。」
◇
翌日ギルドの仕事を済ませてから学校へ向かった。
職員室で全教師にルノガ―校長から紹介された。昨日、サナと揉めていたルーカス先生が睨んでいる。
ルーカス先生はSクラスの担任らしい。
ルノガ―校長に教室で生徒に紹介してくれて言われ、ルーカス先生に連れられて教室に向かう。
「おい、たかがギルド職員が良い仕事にありつけたじゃねえか。」
「数ヶ月だけのお手伝いなので、仕事にありつけた訳では無いですよ。」
この人は好戦的というか、すごく失礼なことを言うな。だが僕には関係ない。依頼を忠実にこなすだけだ。
「ふん。まあいい。くれぐれも問題を起こさぬように。」
教室に着く。呼んだら入ってこいと言われ教室の外で待機した。
中のルーカス先生の声を聴くとホームルームをしているらしい。緊張するな。
「おい。入れ。」
カインは扉を開けて中に入った。
「こいつが新しく実践魔術を新しく担当するカインだ。俺が本来であれば辞めた先生の変わりに教えるはずだったのだが、校長の勅令だ。皆、期待してくれ。素晴らしい授業をカイン先生はしてくれるぞ。」
すごく嫌味な紹介だな。
気にせず、生徒に向けて話し出す。
「はじめまして。只今、ルーカス先生から紹介いただきましたカインです。現在ギルド職員で働いており、臨時講師として実践魔術を皆様に教えることになりました。」
教室がザワつく。ギルド職員ごときが実践魔術を教えれるのかと不安になっている顔だ。
生徒の八割は女性だ。魔法使いは女性の方が多いというのは人数比率から見て本当らしい。話しながら見渡すと、妹のサナとユナ様もいるて、サナが小さく手を振っている。
「授業を受けた上で、実践魔術を教えるに値しない人間だと思えば、ルノガ―校長へ言ってくれて構わない。」
生徒達は黙る。
「この後、実践魔術が二コマある。訓練場に集合してくれ。以上だ。」
そう言うと、ルーカス先生が他の事を話し始め僕は先に訓練場に向かった。
◇
「よしっ。皆集まったな。」
男子生徒が手を上げ発言する。
「カイン先生。魔術実践の経験はあるんですか。」
「そうだな。以前冒険者として、勇者認定されるくらいには魔法を使っていたよ。」
女子生徒がザワつく。
「ではなんでギルド職員なんかしてるんですか。本当にダメだったら辞めるんですか。」
「そのことはまた今度、話そう。勿論。皆が値しないと思う講師が教えても身にならないだろう。」
時間がもったいない。さっそく授業を進めよう。
「今までどう習っていたかは知らないが、魔法は手段だ。魔法だけ使うことが目的ではない。」
生徒達は黙る。
「どういうことでしょうか。魔法なんて使う意味がないってことですか。」
先程から質問する男子生徒はマリタス。貴族の長男坊。甘やかされて育っており地元では神童扱いされていた。生活態度はあまり良くなく、講師をからかっていたことも有ると生徒プロフィール一覧に書いてあった。
さてどうしようか。
「いや。マリタス。そういうことじゃない。やれば分かるさ。さっそくやってみよう。」
マリタスが立ち上がり、前に出る。
距離を取り対峙する。
「相手を無力化すれば終わりだ。それまで何をしても良い。いつでもかかってきていいぞ。」
「へへっ怪我して初日で辞めたくなっても知らねえぜ。」
そう言うと、マリタスが詠唱を始める。
長い。五秒は詠唱しているが、まだ魔法は発動しない。
敵がゴブリンであってもこの間に攻撃されて、終わりだ。
「くらえっ!『ファイヤボール』」
魔力が高いのは認めるが冒険者のDクラスにも満たないだろう。
当たる寸前にファイヤボールを無詠唱で放ち、打ち消す。
生徒たちがザワつく。当然当たって倒れると思っていたのだろう。
「どうした。本気で来ていいぞ。」
チッと舌打ちして、詠唱を再び始める。顔は怒りに満ちている。一発で終わったと思っていたのだろう。
「くらえっ!『ファイヤウォール』」
中級魔法を使えるのは立派だ。
再び当たる寸前にアイスニードルで打ち消す。
マリタスの唖然とした顔が見える。
「まさかこれで終わりではないだろ。全力で来い。」
マリタスが詠唱をし始めると同時に無詠唱でアイスニードルを放つ。マリタスの詠唱が止まる。マリタスは横に転がるように避けた。
そこにアイスニードルを放っている。
当たると思ったのだろう。目をつぶるマリタスだが、魔法は彼の手前の地面に向けて放った。当たりはしないさ。
「よしっ。ここまで。マリタス戻って良い。手伝ってくれてありがとう。」
歓声が上がる。掴みは良いみたいだ。
マリタスは意気消沈した顔で元の場所に戻った。
「今の実践を見てわかったことがある人はいるか。」
女生徒の一人が手を挙げる。彼女はたしか平民出身だが主席のロールだ。
「ロール。発言してくれ。」
「詠唱が長いと無詠唱には勝てないということでしょうか。」
「そうだね。魔法は早く出せると有利にはなるな。他には。」
手を上げたのは妹のサナだ。
「魔法には相性があるという事でしょうか。」
「たしかにそうだ。今マリタスが放ったのは火の中級魔法だが、それを打ち消したのは相性の良い初級の水魔法だ。皆が知っている通り、魔法には相性がある。他には。」
ユナさんが恐る恐る手を挙げる。
「カイン先生は一歩も動いていませんが、魔法でマリタスさんを自分の思うように動かしたように見えました。」
「その通り。それが魔術実践の本質だ。魔獣や敵は詠唱している間は、待ってくれないし、詠唱の邪魔も当然にしてくる。」
「それでは魔術だけじゃダメってことですか。」他の生徒が質問する。
「いやそうは言っていない。武器を扱えれば選択肢は増えるだろう。魔法使いは基本的には後衛だ。後衛だからこそ自分主体で敵をコントロールできれば、楽に戦えると思わないか。」
生徒が静かに聞いている。納得しているみたいだ。
「マリタスはその年齢で優秀な魔法使いだと思う。それに戦闘の仕方を磨けば、もっと強くなると思わないか。」
マリタスは落ち込んでいたが、嬉しそうに頷いた。
「これから魔術実践では一対一での対戦と、詠唱の時間短縮。慣れてきたら無詠唱での魔法を使う練習してもらう。まずは詠唱の時間短縮からやろう。皆立って。まずは火の初級魔法から。始めっ」
時間が許すかぎり生徒にアドバイスをした。
冒険者とは違い、魔法に特化した学校に入学するだけはある。皆魔力も高くて、飲み込みが早い。
授業もあっという間に終わり、終わってお昼休みの間も女子生徒に質問攻めが続いたのであった。
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