第31話 ユナとサナの学園生活

 帝国のお姫様ことガレリア=ユナは、最近、学校に行くことが楽しみになっていた。


 カインさんの助言に従って、自分からクラスメイトに挨拶をするようにした。それがきっかけで徐々にクラスメイトが話しかけてくるようになったのだ。


 魔法学校へはお父様の命令で、今も馬車で通っている。馬車の中は蒸し返す暑さだ。


 「今日も暑くなりそうね。もう夏だわ。」


 行儀は悪いとサーレムに怒られるが、手でパタパタと扇ぐ。


 一つだけ悩みがある。


 それは親友が出来ないということだ。


 クラスメイトと他愛のない話をすることはあるが、なかなか踏み込んだ話はできていない。私に魅力がないから、親友が出来ないのかなと不安になる。


 馬車が学校に着いたみたいだ。執事にお礼を言い降りる。


 すれ違う学校の生徒に挨拶しながら教室に進む。


 校長のルノガ―さんが話しかけてきた。


 「やあ。ユナ。おはよう。最近学校はどうかね。慣れてきたかい。」


 ルノガ―さんは私が幼い頃、帝国騎士団の将軍だった。今は引退して魔法学校の校長をしている。魔法を使えないのだが、優しいお爺ちゃんみたく幼い頃からずっとかわいがってくれる。


 「ルノガ―校長。おはようございます。ええ。だいぶ慣れてきました。」


 「そうか。それは良かった。今日は暑くなるらしいからしっかりと水分補給はするようにな。」


 そう言うと、ルノガ―校長は去っていった。


 教室に入ると、クラスメイトと担任のルーカス先生が言い争いをしている。泣いている子もいるようだ。


 「先生が言っていることはセクハラですわ! 」 


 なにやらクラスメイトが怒っているようだ。


 「サナ、おまえが貴族の娘だからって、会話に入ってくることは許さんぞ。」


 「私が貴族などこの件と関係ありませんわ。それに泣いているじゃないですか。かわいそうに。汗なんて当然かくものですわ。それを指摘するなんて淑女への扱いとしておかしいです。」


 他のクラスの人も集まってきている担任のルーカスは咳をした。


 「まっまあわかった。ほら、お前たちも席につけ。ホームルームを始めるぞ。」


 クラスメイトを庇っていたのはカインさんの妹のサナさん。


 席替えしてから今は私の横の席だ。


 勇気を持って話しかけようとするが、挨拶しかできていない。


 サナに友だちは多い。ポーン家という名家の生まれながら、身分関係なく話をする彼女はクラスの人気者だ。


 泣いているクラスメイトはかわいそうだがサナさんに話しかけるチャンスだ。


 担任のルーカスは夏休みにある合宿の話をしているが、小声でサナに話しかける。


 「サナさん。先程なにがあったんですか。」


 「いつもの担任ルーカスのセクハラよ。アイツ痛い目に合わせてやるわ。」


 サナはすごい怒っている。

 

 そこ、喋るなと担任のルーカスに注意された。



 担任のルーカス先生は話す相手によって態度を変える。好き嫌いが激しいどころではない。権力者の生徒には優しくするが、出身が平民だと酷い扱いをする。魔法もそれなりに使えるみたいから、発言にエリート感を漂わせている。生徒からの人気はない。


 朝のホームルームが終わり、サナさんに再度、話しかける。


 「サナさん、先程は私のせいで注意されましたね。すみませんでした。」


 「そんなこと、気にしていませんわ。」


 「良かったです。あの…サナさんはカインさんの妹なんですよね。」


 サナは驚いた目で見つめる。


 「ユナさん。お兄様をご存じですの。」


 「ええ。何度かお会いして、今は家庭教師をお願いしています。すごく良くしてもらっています。」


 「まぁ。なんて羨ましい。お兄様が家庭教師なんて羨ましい限りですわ。」


 「そうですね。すごく優しくて、教え方もうまいし助かっています。」


 サナはユナの肩を両手で掴み、嬉しそうに話始めた。


 「ユナさんも分かりますか。あのお兄様の優しさが。本当に格好良くて、誰にでも優しい。私が妹でなければ是非とも付き合い殿方ですわ。」


 サナさんのカイン愛は異常な気もするが、勇気を持って話しかけてよかった。


 


 それからユナとサナは学校内で行動を共にするようになり、色々なことを話した。


 名前も一文字違いで、まるで姉妹みたいだとクラスメイトに笑われたりもした。


 サナさんには貴族には貴族なりの悩みがあり、それを私なんかにも相談してくれるし、私も城内での窮屈感を彼女に相談ができる、親しい間柄になっていた。


 「サナさんもし嫌じゃなければ、夏休みにでも城に遊びに来ませんか。」


 「嫌な訳ありません。私たちもう親友でしょう。勿論お邪魔させていただきますわ。」


 些細なことかもしれないがユナは嬉しかった。


 私にも親友ができたんだ。


 城に帰ってすぐにサーレムに報告した。良かったですね姫様。と嬉しそうに聞いてくれた。


 ベッドで一人横になっていると自然と笑みが溢れる。


 サナさんと話すことが一番の楽しみになっていた。




 事件は、夏休みに入る数週間前に起こった。


 クラスメイトの魔道士のローブが何者かによって盗まれたのだ。


 盗まれたクラスメイトは泣いているし、クラスは騒然としていた。


 帰りのホームルームでは犯人探しが行われたが発見できなかった。外部の犯人だろうと結論付けたと担任のルーカスから聞かされた。



 帰り道、サナさんと馬車まで一緒に帰る。サナさんは寄宿舎に居るから、門まで一緒に帰っている。


 「おい、サナ待て。」


 声をかけられてふり返ると、担任のルーカスだ。


 また嫌な奴に話しかけられましたわね。とサナさんの独り言が聞こえた。


 「なにかありまして。ルーカス先生。」サナさんが返事をする。


 「特に用があると言うわけじゃないんだが、お前は気をつけた方がいいと思ってな。寄宿舎にも盗みを働く輩は来るかもしれないからな。」


 「それはどういう意味ですの。」


 「いや、意味はないさ。ただ気をつけろよと言っただけだ。それにおまえは汗をかいているな。伝統ある魔法学校としてこれは見逃せん。どれ、俺が拭いてやろう。」


 ルーカス先生はいやらしく笑いながら言った。


 「ルーカス先生、あなた女子生徒から見る目がイヤラシイと言われている事はご存じですの。年頃の女生徒も多いので、気をつけたほうがよろしくてよ。」


 ルーカス先生の笑みは怒った顔に急変する。


 「生意気だな。サナ=ポーン。おまえがそんな態度ならこちらにも考えがある。これから私の研究室に来なさい。」


 「なぜですか。私は何も間違えたことは言っていませんわ。これから用事もありますので、お断りさせていただきます。」


 それを聞いた、ルーカス先生は顔が真っ赤になり、


 サナを叩こうと手を振りかざした。


 「もしかして、サナか。」


 ふり返ると門からカインさんが入ってきた。なぜカインさんがここに居るのだろう。


 「お兄様! 」サナが兄カインを見つけて嬉しそうにぴょんぴょん跳ねている。


 「やっぱりサナだ。門の外からも大きな話し声が聞こえてたよ。聞いたことがある声と後ろ姿でサナだと思ったんだ。」

 

 「さすがお兄様ですわ。」


 そう言うと遮るように担任ルーカスがカインに話しかけた。


 「おいおまえは誰だ。ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ。」


 「申し遅れました。私はカインです。ギルドにルノガ―校長から依頼があって参りました。」


 怒っていたルーカス先生の顔がニヤリと笑う。


 「ほう、おまえがサナの兄にして、ポーン家の恥晒しのカインか。」


 カインは気まずそうにしている。


 「そうです。サナの兄ですし、一応ポーン家に名はあるので、ポーン家の放浪息子です。妹がいつもお世話になっております。」


 カインが丁寧に頭を下げた。


 「ふん。妹と違って少しは礼儀があるみたいだな。校長室は一階の一番右奥だ。終わったらすぐに学校から出ていくように。」


 そう言うとルーカス先生は去っていった。


 「サナ何があったんだ。」


 「あれが前に話した担任ルーカスですわ。それに多分ですが、あいつが盗難の犯人ですわ。」


 「…盗難。何のことだ。」


 「ええ。実はこんなことがありまして…」


 今日あった盗難事件のことをカインさんにサナがさんが説明した。


 「なるほど。外部の犯行と結論付けたなら担任は犯人じゃないだろう。」


 「いえ、彼は私に『お前は気をつけろ』と言いましたの。彼の犯行ですわ。次は私がなにかされるのでしょう。注意しなくてはいけませんわ。」


 たしかにそう言われるとそうだ。全然気がつかなかった。


 「お兄様はルノガ―校長を待たせているのでしょう。急いだほうがよろしくてよ。」


 いけないとカインさんが言い、校舎に向かおうとする。


 立ち止まり、私に話しかけてきた。


 「ユナ様、いつもサナと仲良くしてくれてありがとうございます。」


 丁寧に頭を下げて挨拶してくれた。


 「私がお世話になっています。ご丁寧にありがとうございます。」


 「急ぐから先に行くよ。二人共気をつけて帰るんだよ。」と言いカインさんは去っていった。


 「ユナさん、お兄様と仲良さそうで少し嫉妬しますわ。」


 「なっなに言ってるんですか。普通ですよ。普通。」


 「うふふ。恋する乙女は分かりやすいですわね。私たちは親友でありライバルですわ。」


 そう言うとサナさんが手を差し出してきた。


 手を握り返す。


 「お兄様は鈍感だから大変ですわよ。」


 「そうですね。それは同意です。」


 そう言うと二人して笑った。


 サナさんとお別れして馬車に向かう。執事から「姫様。顔が赤いですが、大丈夫ですか」と言われた。夏だから熱くて、体調は大丈夫です。と私は答えた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る