第29話 イグニスの槍は勇者再認定を目指してカインに挑戦する

 カインは了承していないが、イグニスの槍との決闘を断れない雰囲気だ。


 準備しろと言われて、先日サーレムと決闘で使った広場に移動する。


 ガリレア王は上から見下ろし宣言する。


 「イグニスの槍は誰が出るのか。まさか三人でカインに挑むという、卑怯なことはせぬだろうな。」


 誰が出てくるのか。イグニスの槍が話し合っている。


 いやルキナが指示を出しているようだ。


 「アア。オレが出よう。」


 アパムが申し出てきた。


 アパムは大剣使いだ。筋力が帝国一とも噂されている。


 正面からやり合うと厳しいが、どれだけ筋力があろうと当たらなければ問題ない。


 サーレムから剣と盾を借りる。自分の装備はギルドに置いてきたからな。


 先日手合わせした騎士たちがギャラリーで集まってこちらを見ている。僕に手を振っているやつもいる。王様もいるのだが、そんな態度で大丈夫なのか。


 騎士の手が足りないと言った発言は納得がいない。絶対にこの人たち暇だ。



 「よしそれでは、カインとアパムの決闘を始める。アパムが勝利した場合は、イグニスの槍に勇者認定を再度与えよう。敗北した場合は、Eランクからやり直しじゃ。予が勝敗を判断する。」


 僕が勝っても、特にギルド側にはメリットが無い気がする。


 「始めっ。」


 他のことを考えていると足元をすくわれる。


 目の前のアパムに集中しないと。


 アパムが駆け出し、距離を詰めてくる。


 大剣を上から叩きつけるように振るう。


 受けるか。躱すか。


 ここは盾で受けて様子見だっ!


 カインは盾で剣撃を受ける。


 クッ…重い。


 重いが…赤龍の攻撃に比べたらそこまでの力ではない。


 カインは受けた盾で押し返し距離を取る。


 「アパム。本気で来いよ。お前の力はそんなものじゃないはずだ。」


 アパムはムッと怒った顔をして、スキル<飛び込み薙ぎ払い>を繰り出す。


 重いが盾があれば防げる。


 アパムは好機と見たのだろう。大剣を手のようにうまく扱い、角度を変えて何度も連続で攻撃してくる。


 イグニスの槍にいた頃、アパムとは手合わせを何度もやった。


 アパムの力に押されて、盾でガードしても吹っ飛んでいた記憶しかないのだが…


 どうも様子がおかしい。


 いとも簡単にアパムの攻撃を防ぐことができている。


 ノックバックすることもない。


 開始してから数分経つが、一歩も下がっていない。


 アパムが距離を取る。肩で息をし始めている。


 アパムほどの力を持つ大男だとしても、大剣を数分振り回せば息があがるのは当たり前だ。


 チャンスだ。攻撃に転じよう。


 上から飛んで来る剣撃を盾で受ける。


 今までは押し返していたが今回は盾で大剣を左に軌道をずらす。


 がら空きの右足を狙って剣を振る。


 手応えありだっ!


 アパムがしゃがみ込む。


 血が出たな。


 斬られた足を左手で抑えている。


 よしっ。これで終わりだ! 。


 勢いそのままにアパムの体に体当たりをしてのけぞらせる。


 がら空きになったみぞおちに蹴り込む。


 前向きにアパムがうずくまった。


 「そこまでっ! 勝者カイン! 」

 

 ガリレア王が高らかに宣言した。


 アパムは当たりどころが悪かったみたいで吐いている。


 大丈夫かと手を差し伸べるとうるさいと手を払われた。


 騎士団に吐瀉物を片付けさせるのはかわいそうだ。帰る前に掃除するか。


 見ていた騎士団やお偉方もざわついている。


 まさか無傷で勝てるとは思わなかった。


 イグニスの槍にいた時は、力でアパムに負けていたんだ。二年間の旅の中で一度も勝てたことはなかった。


 ………もしかしてイブと契約してから強くなっているのか。


 力が満ち溢れている感覚はしていたが、ここまでアパムを力で圧倒できるとは思っていなかった。


 帰ったらイブに確認しよう。


 「約束じゃ。イグニスの槍のEランクへの転落を命じる! 」


 「ま、待ってよ。今のは無効だわ。カインは卑怯な技を使ったのよ。」


 ルキナがガリレア王に向かい叫ぶ。


 「往生際が悪いの。ルキナよ。そなたは約束を反故にするのか。」


 「違うわ。次は私がカインと戦うって言っているの。」


 何も違わない。往生際が悪いと言ったらありゃしない。


 それに卑怯な技ってなんだ。


 「はあ。カイン相手してやれるか。」


 ガリレア王が面倒くさそうに言った。


 話が通じない相手と話すのは疲れる。


 先日、ビンタされたこともあるし、折角の機会だ。魔力もどれくらい上がっているのかを確かめたい。


 「やらせていただきます。」


 「カイン、よく言ったわ。私は魔法使いだから剣はなしにしてもらうわ。卑怯な技を使われても困るしね。」


 反論するの気も起きない。


 ガリレア王を見ると面倒くさそうに手に頬を乗せてこちらを見ている。


 「それでは始めっ! 」


 ガリレア王の宣言と同時に、ルキナが詠唱を始める。


 魔力が上がっている可能性があるにしても、正面からやり合うとどうなるか分からない。


 少なくともイグニスの槍にいた頃は魔力ではルキナに勝てていなかった。


 確実に勝てる方法を取る。


 無詠唱でサンダーアローを何発も撃ち込む。


 一番速い魔法で追い込もう。速さは正義だ。


 ルキナは慌てて横に避ける。


 避けた時点には既にサンダーアローを時間差で放っている。


 ルキナは体勢を崩して、転がる。避けることに精一杯で、詠唱がうまくできていないみたいだ。狙い通りだ。


 「ひっ卑怯よ。カイン。正々堂々と魔法で勝負しなさい! 」


 戦闘に卑怯もなにもないが、転がりながらうまく叫べるものだ。


 攻撃するスキを与えた上で勝てばルキナは納得するか。めんどくさいな。


 サンダーアローを止める。


 ルキナが立ち上がり、再び詠唱を始める。


 数秒は待つ。その間にオレも詠唱をして迎撃する準備だ。


 「受けてみなさい! カイン! 」


 「勝負だっ! ルキナ! 」


 ルキナが最上級火炎系魔法、超新星<スーパーノヴァ>を放つ。


 ルキナの代名詞と言える魔法だもんな。超新星<スーパーノヴァ>が来ると思っていたさ。


 カインは詠唱をして効果を何倍にも高めた氷刃の嵐<ダイヤモンドダスト>を放つ。


 火を水と氷で打ち消すためだ。


 空中で魔法同士がぶつかり、爆発した。


 魔法同士がぶつかると、魔力の弱いほうが打ち消されるのが道理だ。勿論魔法同士の相性はあるが。


 爆風で視界が見えなくなる。


 オレに炎は届いていない。オレの方が魔力は上だったな。


 視界がひらけてきた。


 氷の刃が広場中に残り消えていくのが見えた。。


 ルキナは氷の刃が当たり、体中のいたるところに傷を負っていた。


 片足を地面に付けて、悔しそうにこちらを睨んでいる。


 オレの勝ちだ。ガッツポーズをする。


 カインのガッツポーズを見て、ギャラリーの騎士たちが歓声を上げた。


 「もう良いだろう。勝者カイン。」


 ガリレア王は堂々と宣言した。どうだ予の想定通りカインが勝っただろと取り巻きに自慢してる。


 「なによ。なんなのよ。カインの癖に。」


 ルキナが泣きながら叫ぶ。自分の最大魔力を出して負けたのだ。よっぽど悔しかったのだろう。


 この後に及んで、闘志を失わないのは素直に尊敬する。


 「イグニスの槍はEランクから再始動だ。」


 「いやよ。待って。お願いだから。」


 「もう、よい。これ以上意見するなら、牢屋でたっぷりと反省してもらうが。」


 ガリレア王の言葉を聞いたルキナはその場にへたり込んだ。


 アパムとソラも何も言わない。

 

 「イグニスの槍は城にもう用はないだろう。お引取りを願おう。」


 ガリレア王が手で払うと騎士がルキナたちに駆け寄る。


 座り込んでいるルキナは騎士に両方から支えられ連れていかれた。


 可愛そうだと思うが、自業自得だろう。あれだけ王様に暴言とも取れる言葉を使っていたのだ、捕まらなかっただけ運が良かったと思う。


 「カイン。よくやった。いや良いものを見せてもらった。褒美をやろう。褒美は何がほしい。」


 「いえ。特に褒美は必要ないです。」


 つまらぬことを言うな。予は嬉しいのじゃ。


 困ったな。すぐに思いつかない。


 騎士のサーレムと目が合う。


 思いついた。


 「あっ、一つだけお願い申し上げます。」


 何なりと申せとガリレア王が言った。


 「ギルド冒険者と帝国騎士で稽古する時間を作るというのはどうでしょう。冒険者は騎士の基本に忠実な技が学べて、騎士は冒険者のずる賢い技を学べる。相互にいい経験になるでしょう。自主参加であれば、強くても弱くても、参加した誰もが少しは強くなれるのではないでしょうか。帝国の戦力の底上げにもなると存じ上げます。」

 

 ガリレア王が大笑いした。


 何もおかしいことを言っていない気がするが。


 「カインは面白い男だ。良かろう。許可する。お互い予定もあるだろうし、月に一度であれば大丈夫だろう。それに、メンゼフも体を鍛え直すいい機会だ。久しぶりに戦っているところも見たいしな。」


 メンゼフさんが恐縮ですと言っている。


 メンゼフさんが戦っているところは見たことがないし、ラッキーだ。


 「ありがとうございます。帝国にもギルドにも迷惑はかけません。私が責任を持って運営します。」


 ガリレア王とメンゼフさんが頷く。


 良かった。どうやらうまくまとまりそうだ。


 誰も死ぬところを見たくない、立場は違うが学ぶことは多いだろう。


 「日程などは後ほどギルドに通達する。今日は済まなかったな。カイン。また遊びに来てくれ。ユナを会いたがっておる。」



 お礼を言って、メンゼフさんと城を出てギルドに向かい歩き出す。


 「カイン、お前強くなりすぎてないか。負けるとは微塵も思わないが、もう少し戦闘が長引くかと思ったぞ。それにアパムを力で押し返してた。どうなってやがる。」


 「僕も驚きました。イブと契約した効果なのかもしれません。」


 「ああ帰ってみたら水晶で測ってみろ。」


 カインはその後、ギルドの水晶で戦闘力を測った。ランクは全てAランクを示していた。


 数値を見たメンゼフさんはひっくり返った。


 「カインお前なにやったんだ!」


 「分かりません。イブ呼びますねっ。」


 どうも精霊から力を借りているからとイブは言ってたが、詳しいことはわからないと言っていた。




 帝国騎士と冒険者ギルドの交流はカインの提言がきっかけで始まった。この交流が発展して、闘技大会が開かれる、年一度の帝国の名物になるとはこのとき誰と思っていなかった。

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