第28話 カイン勇者になる?

 カインはギルドで忙しい毎日を送っていた。


 一日数件はアシスト制度と助け手をこなし、戻ってきたら書類作業と受付業務だ。


 最近のクエスト成功数は帝国ギルドの過去最高数値を更新しているらしく、僕がギルド職員になった時と比べても依頼の量も2倍になっていた。


 嬉しい悲鳴であるが、ギルド職員に負担がかかっている。残業がないのがギルドのポリシーだが、仕事を残すとメンゼフさんが徹夜で対応するのが目に見えている。仕事は残せない。


 書類作業をする時は、速度アップのバフを使う。速くしないと到底終わらない量だ。


 今日は、アシスト制度も入っていない。助け手が鳴るような難易度の高いクエストの受注もない。


 カインは受付業務に回ろうと控室を出た。


 ミントさんが十六夜さんと受付に立っている。


 手伝いますと言うと、


 「カインさんは今日くらいゆっくりしていてください。」と言われた。


 大人しく書類作業でもやるか。


 そう思い、控室の椅子に座る。


 メンゼフさんが血相を変えて部屋に入ってきた。


 「お疲れ様です。メンゼフさん。何かありましたか。」


 「何かありましたかじゃねえ。カイン。大変なことになった。付いてきてくれ。いつもの冒険者の格好じゃダメだ。ギルドの制服に着替えることを忘れるなよ。」


 「わかりました。」


 正装になるということは、城に呼ばれるということか。


 メンゼフさんの顔を見るとただ事ではないだろう。冒険者の格好じゃダメというのはなぜか分からないが、急ぎのようだ。さっさと着替えよう。



 急いで城に向かう。今回も城門では顔パスで通してくれた。


 行き先はどうやら、謁見の間みたいだ。


 道中、何があったんですかと聞くが、メンゼフさんは教えてくれなかった。


 入ります。とメンゼフさんが言い、謁見の間の扉を開けた。


 ガリレア王とお偉方が三十人はいるみたいだ。父アルベルトもいるし騎士のサーレムの姿も見える。


 何が起こっているんだ。


 ガリレア王がよく来たな。と言う。


 顔は怒っている様には見えない、何があるのか想像もつかない。


 カインとメンゼフはガリレア王の前に行き、片膝を立て頭を下げる。


 「良い。面を上げろ」とガリレア王が言った。


 「カイン。お前に良い知らせがある。先程、帝国議会で決定したのだが、カイン。お前を勇者認定したい。」


 ……唐突すぎて、頭が回らない。


 「お言葉ですが、なぜ私なのでしょうか。」


 「理由は簡単じゃ。イグニスの槍が勇者認定取り消された今、帝国には勇者認定を受けているパーティはいない。だが、他国への見栄えもある。誰かいないのかという話になった時に、そなたを推薦する声が一番多くてな。カインは元勇者ということもあり、帝国としてもやりやすい。予も当然認めた男じゃ。問題なかろう。」


 なるほど。理由は分かった。


 どう答えようかと思い、メンゼフさんを見ると、好きにしろと言う顔をして、少しだけ肩をすくめた。


 自分で判断しろと言うことか。


 「ありがたいお誘いではありますが、私はギルド職員です。勇者認定されても依頼はこなせませんし、辞退させていただきます。」


 きっぱりと断る。


 周りのお偉方がザワつく。


 数ヶ月前の自分だったら喜んで受けていただろう。勇者認定されれば、帝国中からチヤホヤされるし、お金も貰える。色々と融通も効く。


 だが、僕が大事なのは名誉でもお金ではない。


 今はギルドの仲間が大事だ。


 「そうか。カインならそう言うと思っておった。」 


 ガリレア王がひげを触りながら何度も頷く。


 「申し訳ございません。ガリレア王。ご理解いただき嬉しく思います。」


 「最後に一つだけ問おう。ギルド職員として身を粉にして働くのは分かる。今、帝国にはイグニスの槍をA級に落としてから、S級パーティは一組しかいない。そうだな。」


 「はい。そのとおりです。」


 「うむ。このままS級クエストになるような難しい任務はギルドとしては受けないということか。ギルド職員としてどう考える。」


 言葉につまる。


 確かにガリレア王が言っていることは正しい。


 現在、初級冒険者は急速に成長している。だからと言って、数ヶ月でS級冒険者に育たない。A級クエストが掲示板に期限ギリギリまで余っていてメンゼフさんとマンゼフさんが休日に対応しているのが現状だ。


 困ったな。どう言おうか。


 「意地悪な質問をしてしまったな。カインが教育を始めてから急速に冒険者達が成長しているのは聞いておる。その事自体は予も嬉しい。心苦しいが、帝国としては難しい依頼もこなさなければならぬ。騎士もやることが多くて手一杯なのじゃ。」


 「そこでじゃ、カイン。サーレムも最近ギルドに登録したと聞いたぞ。サーレムも使って良い。週に一日でも良い。勇者認定をしない代わりといってはなんだが、A級以上のクエストを受けてくれんかの。」


 そう言われると断れない。上司であるメンゼフさんを見る。


 ここらへんが落とし所だろという目をしている。


 「配慮いただきありがとうございます。」


 「私含めて、ギルドで週に数件は対応することを約束致します。」


 そう言うとメンゼフさんは頭を下げた。僕も合わせて頭を下げる。

 

 「サーレムの日程は調整してギルドに連絡しよう。マンゼフにも迷惑をかけるな。どうしても騎士団の手が空かぬ状態でな。カインが騎士団だったら良かったのじゃが。」


 ガリレア王が笑う。


 A級以上のクエストの対策は考えないといけないが、勇者認定されなくてよかった。


 マンゼフさんが話を切り上げようとすると、どうも後ろが騒がしい。


 ふり返ると、謁見の間の扉が開く。


 そこにはルキナ、ソラ、アパムが兵隊に囲まれて立っていた。



 「離しなさいよっ! 」


 ルキナの叫び声が謁見の間に響き渡る。


 ガリレア王も何事じゃとつぶやき心配そうな顔で見ている。


 「申し訳ございません。今は中には入れないと伝えたのですが、イグニスの槍が無理やり入ろうとして。止めていたのですが…」


 兵士がそう言うと、謁見の間で待機していた騎士がルキナを取り囲みに向かう。


 ルキナが大声で叫ぶ。


 「私たちイグニスの槍の勇者剥奪について話に来たわ。ガリレア王。理由を説明してくれるかしら。」


 メンゼフさんは頭を抱えている。


 連れ出さんでよい。近うよれ。とガリレア王が言った。


 ルキナ、ソラ、アパムのイグニスの槍がカインの横に来る。


 ルキナに睨まれる。一昨日のことを根に持っているのだろうか。


 「ガリレア王、説明してくれるからしら。」


 王の前でなんと失礼な態度なのだろう。メンゼフさんは怒りで肩が震えている。


 「イグニスの槍の、たしか…ルキナといったか。」


 ええそうよと答える。


 「なぜイグニスの槍が勇者剥奪されたのか分からぬと申すか。」


 「そうよ。悪いのはルークよ。私たちは何もしていないもの。」


 「なるほど。だから勇者剥奪を撤回しろと言うのじゃな。」


 ルキナが頷く。


 「ふむ。困ったの。帝国としても勇者は必要じゃ。勇者は帝国を代表する冒険者であるべきじゃと思わんか。」


 「もちろん。そうだわ。だからこそイグニスの槍がふさわしいのよ。」


 ドヤっとキメ顔でルキナが言う。


 あまりに常識がなさすぎて、聞いていてヒヤヒヤする。


 「ふむ。帝国の代表と分かっていながらその態度ということか。」


 ガリレア王が凄むと圧力がすごい。謁見の間の空気が固まる。


 「そっそれは、先に勇者を剥奪されたからよ。」


 さすがのルキナもビビっているようだ。


 「ふむ。鉱山で働き更生したと聞いていたが、どうやら予の勘違いだったみたいじゃな。のうメンゼフよ。」


 「申す言葉がありません。」


 メンゼフが答える。


 「うむ。そうだな。言っても分からぬなら。カインと戦って力を証明してみせよ。このまま帰ればルキナの失態は見逃す。だが、もし負けたら初級冒険者としてEランクからやり直してもらう。」


 どうすると言わんばかりにガリレア王は首を少しひねる。


 「勿論やるに決まってるじゃない。カインに勝ったら勇者認定再度してもらうわ。」


 どうしてルキナがこんなに自信満々なのか。理解できない。


 ソラもアパムも止めないのか。いや止めはしたが、ルキナが暴走したのだろう。


 戦うことを了承していないのだが…話が勝手に進むことに納得はできない。


 こんなことに巻き込まれるなんて。


 はぁ。憂鬱だ。

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